ここから終盤は、作った音をどう広げるかという視点も入ってきます。今回はエフェクトの話です。モジュラーシンセというとVCOやVCFといった音源・音色加工のモジュールが注目されがちですが、エフェクト系のモジュールもパッチの表現力を大きく広げてくれます。中でも「ディレイ」は最も基本的で応用範囲の広いエフェクトのひとつです。
ディレイとは
ディレイは、入力された音声信号を一定時間遅らせて再生するエフェクトです。山に向かって「ヤッホー!」と叫ぶと少し遅れて返ってくる、あの「やまびこ」と同じ原理です。
基本的な動作としては、入力信号をバッファ(一時的な記憶領域)に取り込み、設定されたディレイタイム(遅延時間)の後に出力します。この遅延した信号のコピーが「エコー」と呼ばれるものです。
主要なパラメーター
ディレイモジュールには通常、いくつかの基本的なパラメーターがあります。
ディレイタイム
元の信号と遅延信号の間の時間差です。短くすれば素早い反復に、長くすれば間隔の空いたエコーになります。この値ひとつで、エフェクトの性格が大きく変わります。
フィードバック
遅延した信号をもう一度入力に戻す割合を決めるパラメーターです。フィードバックが0ならエコーは1回だけ。値を上げるにつれて繰り返しの回数が増え、徐々に減衰しながら何度も反復するエコーが得られます。
フィードバックの量が100%に近づくと、エコーがほぼ減衰せずに持続し、どんどん音が重なっていって密なテクスチャーが生まれます。100%を超えると信号がどんどん大きくなっていき、自己発振状態(フィードバックが暴走して音が鳴り続ける状態)になります。これは制御を失うと大変なことになりますが、意図的に使えば独特の効果が得られます。
ドライ/ウェット(ミックス)
原音(ドライ)と遅延信号(ウェット)のバランスを調整するパラメーターです。ドライ100%なら元の音だけ、ウェット100%なら遅延した音だけが出力されます。
後半のサウンドデモでは、ディレイタイムとフィードバックが、エコーの間隔と残り方にどう効くかを確認できます。
フィルター/トーン
フィードバック経路にフィルターを入れることで、エコーが繰り返されるたびに音色が変化するようにするパラメーターです。高域をカットする設定が多く、繰り返すごとにエコーがだんだんと暗くなっていきます。これは実際の空間で音が反射を繰り返すと高域が吸収されていく現象を模したもので、自然な響きを作るのに効果的です。
ディレイタイムによる効果の違い
ディレイタイムの設定によってエフェクトの性格が変わります。
超短いディレイ(1〜30ms)
ディレイタイムが非常に短いと、エコーとしては聴こえません。代わりに「コムフィルタリング」という現象が起きます。元の信号と遅延信号が干渉し合い、周波数スペクトル上に櫛(くし)の歯のような凹凸が生じるものです。
このディレイタイムをLFOでゆっくり動かすと、フランジャーやコーラスのような揺れる効果が得られます。フランジャーはディレイタイムの変動幅が大きく、コーラスはより穏やかなものですが、原理としてはどちらもショートディレイのモジュレーションです。シリーズの前半で紹介したLFOの活用例のひとつと言えるでしょう。
中くらいのディレイ(30〜300ms)
この範囲になると、エコーとして認識できるようになります。特に100ms前後の「スラップバックディレイ」はロカビリーやダブミュージックでよく使われるサウンドです。短い間隔でパンッと一回だけ返ってくるような印象で、音に奥行きと勢いを加えてくれます。
長いディレイ(300ms以上)
はっきりとしたリズミカルなエコーが得られる領域です。ディレイタイムをテンポに同期させると、8分音符や付点8分音符の間隔でエコーが繰り返される、いわゆるテンポディレイになります。リズムパターンに複雑さを加えたり、アルペジオのような効果を生み出したりと、楽曲の中で積極的に使えるエフェクトです。
モジュラーシンセならではのディレイ
モジュラーシンセでディレイを使う大きな利点は、ディレイタイムやフィードバック量をCVで制御できるということです。例えばエンベロープでフィードバック量を一瞬だけ上げて、その後すぐ戻すということができれば、「ダブスロー」と呼ばれるテクニックが実現できます。また、ディレイタイムをCVで変化させると、テープが伸び縮みするようなピッチの揺れが生じ、非常に表現力の豊かなサウンドが作れます。
さらに、ディレイを直列に複数つないだり、フィードバック経路にフィルターやディストーションを挟んだりと、モジュラーの自由な接続性を活かした複雑なディレイネットワークを組むことも可能です。
サウンドデモ
短いブリップをDelayへ送り、Time、Feedback、Mixでエコーの間隔と残り方を変えます。Delayノードのスコープには、入力後も尾を引く反復が現れます。
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MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがディレイ機能を実装しています。
まとめ
ディレイは「音を遅らせる」というシンプルな原理から、エコー、コーラス、フランジャー、アンビエントテクスチャーまで、多彩な効果を生み出せるエフェクトです。モジュラーシンセではCVによるリアルタイム制御が加わることで、さらに表現の可能性が広がります。
次回は「ポリフォニー」、つまり複数の音を同時に鳴らすことについて見ていきます。モジュラーシンセでの和音演奏の仕組みの話です。





