シリーズ7回目はエンベロープ・ジェネレーター(Envelope Generator、以下EG)についてです。
前回のVCA解説で「VCAにエンベロープジェネレーターのCVを繋ぐと音の形を作れる」と書きましたが、今回はその「音の形を作るCV」を生成するモジュールについて詳しく見ていきます。
楽器の音は、それぞれ独特の時間的な変化を持っています。ピアノは鍵盤を叩いた瞬間に最大音量になってそこから減衰していく。バイオリンはゆっくり音量が上がっていって弓を離すまで持続する。ドラムは一瞬で最大音量になって即座に消える。こういった「時間的な音量変化の形」を電圧のカーブとして生成するのがEGです。
ADSRとは
EGの中で最もポピュラーなのがADSR型です。Attack、Decay、Sustain、Releaseの4つのステージから構成されていて、それぞれの頭文字を取ってADSRと呼ばれています。
EP.2のゲート&トリガーの解説で、ゲート信号は「鍵盤を押している間HIGHになる信号」と説明しました。ADSRはこのゲート信号をトリガーにして以下の4段階で電圧カーブを生成します。
Attack(アタック)
ゲートがHIGHになった瞬間(鍵盤を押した瞬間)からスタートし、電圧がゼロから最大値まで上昇するフェーズです。このアタックの時間を短くすると「パンッ」と即座に音が立ち上がり、長くすると「ふわーっ」とゆっくり音が立ち上がります。
短いアタック(1〜5ms): パーカッシブな立ち上がり。ドラム、ピアノ的
長いアタック(500ms〜数秒): ストリングスやパッド的なゆったりした立ち上がり
Decay(ディケイ)
アタックで最大値に達した後、サスティンレベルまで電圧が下降するフェーズです。ピアノで言えば、鍵盤を叩いた瞬間の最大音量から、押さえ続けている時の音量まで下がる部分にあたります。
Sustain(サスティン)
ここが他の3つと少し性質が違うポイントなのですが、サスティンは「時間」ではなく「レベル」を設定するパラメーターです。ゲートがHIGHの間(鍵盤を押し続けている間)維持される電圧のレベルを決めます。
サスティンが最大だとディケイフェーズが無いに等しくなり(下がる先が無いので)、サスティンが0だとゲートを押し続けていても音がディケイの後に消えてしまいます。
Release(リリース)
ゲートがLOWになった瞬間(鍵盤を離した瞬間)から電圧がゼロに戻るまでのフェーズです。短いリリースだと「ブツッ」と音が切れ、長いリリースだと余韻が残ります。
リバーブとは違いますが、リリースが長いとパッドのように音の余韻が伸びるので、空間的な広がりを感じる効果があります。
EGの出力は「CVの形」
EG自体は音を出しません。EGが出力するのは、時間と共に変化するCV信号であり、そのCVを別のモジュールに送ることで効果を発揮します。
VCAに繋ぐ → 音量のダイナミクス
前回のVCA解説の本丸がこれです。EGのCV出力をVCAのCV入力に繋ぐことで、ADSRの形に沿って音量が変化するようになります。
鍵盤を押すとアタックで音が立ち上がり、ディケイを経てサスティンレベルで持続し、鍵盤を離すとリリースで音が消えていく。これで初めて「楽器のように振る舞う音」が完成するわけです。
後半のサウンドデモでは、ADSRが出すCVの形が、そのままVCAの音量カーブになるところを確認できます。
VCFに繋ぐ → 音色の時間変化
EP.5のVCF解説で触れたように、EGのCVをフィルターのカットオフ周波数に繋ぐこともよく行われます。この場合、鍵盤を押した瞬間にフィルターが開いて明るい音になり、時間と共にフィルターが閉じて暗くなっていくという、サブトラクティブシンセシス(倍音を削って音を作る基本方式)の定番の動きができます。
「ビャウ」という感じのアシッドベースサウンド(TB-303的なうねるベース)は、短いディケイでフィルターカットオフを動かすことで作れます。
VCOに繋ぐ → ピッチの変化
EGのCVをVCOのピッチに繋ぐと、音の立ち上がりでピッチが変化する効果が得られます。打楽器のシンセサイズ(キックドラムなど)では、非常に短いアタック・ディケイでピッチを急速に下降させるのが定番のテクニックです。
ADSR以外のエンベロープ
ADSRが最もポピュラーですが、他の形式のEGもあります。
AR(Attack-Release)
アタックとリリースだけのシンプルな2ステージエンベロープです。ゲートがHIGHになるとアタックで最大値まで上がり、ゲートがLOWになるとリリースでゼロに戻ります。パーカッシブな音やワンショット(一度だけ鳴らす)的なイベントに使われることが多いです。
DAHDSR
ADSRの前にDelay(遅延)、Attack後にHold(保持)のステージを加えたもの。より複雑な時間変化が作れます。
ループするエンベロープ
エンベロープの最後まで到達したら最初に戻って繰り返すタイプです。こうなるともはやLFOに近い動作ですが、ADSRの各ステージの時間を個別に設定できるので、LFOでは作れないような不規則な波形の周期的変調が可能です。
カーブの形状
アタックやディケイ、リリースには、カーブの形状という要素もあります。
リニア(直線): 一定の速度で電圧が変化する
エクスポネンシャル(指数): 最初は速く、後半はゆっくり変化する(またはその逆)
自然界の多くの現象は指数的に変化するので、エクスポネンシャルカーブの方が自然に聞こえることが多いです。一部のEGモジュールではこのカーブの形状を連続的に調整できるものもあり、音のニュアンスを細かくコントロールできます。
EGの実践的なコツ
実践的なコツをいくつか挙げます。
アタックは思ったより速くていい
始めてEGを触ると、アタックをゆっくりにしがちなのですが、楽器的な音を作りたい場合はアタックは結構短めが良いことが多いです。1〜10msぐらいが楽器的。50ms以上になるともうパッド的な質感になってきます。
サスティンレベルで音のキャラクターが変わる
サスティンを高めに設定するとオルガンのように音が持続する感じに、低く設定するとピアノやギターのように減衰する感じになります。このパラメーター一つで楽器の「ジャンル感」がかなり変わります。
EGは複数あると便利
VCAとVCFに別々のEGを割り当てることで、音量変化と音色変化を独立してコントロールできるようになります。例えば音量は速い立ち上がりで、フィルターはゆっくり開くというような設定にすると、非常に表情豊かな音になります。
サウンドデモ
ゲートボタンからADSRを起動し、そのCVでVCAのゲインを開閉します。Attack、Decay、Sustain、Releaseを動かすと、ストリップ表示の形と音の立ち上がり/余韻が一緒に変わります。
関連する Takazudo Modular 製品
標準的なゲート信号でADSRを生成するアナログエンベロープジェネレーター。各ステージ(A/D/R)のカーブをログ、リニア、エクスポネンシャルから独立して選べ、多彩な形状を作り分けられる12HPのシェイプドADSR。

基本的なADSRエンベロープをアナログ回路で2HPに凝縮したエンベロープジェネレーター。René Schmitz氏の「Fastest Envelope in the West」回路をベースに、余ったスペースへ無理なく差し込める、何本あっても困らない定番モジュール。

同じ型番を持つ日本製ヴィンテージマシンにインスパイアされた6ボイスのアナログドラムモジュール。Kick、Snare、Hand Clap、Closed/Open Hi-Hat、Ride Cymbalを16HPのコンパクトサイズに凝縮。

2つの入力シグナル/オーディオの加算/減算/平均/オフセット等を柔軟に行える多機能ミキサー。2チャンネルの合成が2ペアあり、思い描くCV処理を形にしてくれるモジュール。

2チャンネルのサンプル&ホールド回路に加え、ノイズジェネレーターなども備える多機能ユーティリティ。CVの変調やランダム信号生成に最適。Track&Hold、Slew Limiterも搭載。

VCV Rackのプラグインを物理ノブとジャックで操作できる26HPのハイブリッドモジュール。160以上の内蔵モジュールに加えて1,500を超えるサードパーティプラグインに対応し、microSDとUSB-Cで拡張可能な柔軟なシステム。

MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがエンベロープジェネレーター機能を実装しています。
まとめ
エンベロープ・ジェネレーターはADSRの4ステージで時間的に変化するCV信号を生成するモジュールです。VCAに繋いで音量を、VCFに繋いで音色を、VCOに繋いでピッチを時間的にコントロールすることで、モジュラーシンセの音に「楽器としての表情」を与えます。
次回はここまでの流れの締めくくりとして「シグナルフロー」について書きます。ここまでで登場したVCO、VCF、VCA、エンベロープジェネレーターが、実際のパッチの中でどう繋がるのか。クラシックなサブトラクティブシンセシスの信号の流れを俯瞰して扱います。








