「キーワードで理解するモジュラーシンセ」シリーズ、最終回の第20回です。これまで基本的なモジュールの話からエフェクト、ポリフォニーと進めてきましたが、ラストは少し発展的な内容ということで、「FM合成」(Frequency Modulation Synthesis)について書いていきます。
FM合成は、シンプルな波形同士の組み合わせから非常に複雑な音色を作り出す合成方式で、モジュラーシンセでも独特な音作りの幅を広げてくれるテクニックです。
- FM合成とは
- キャリアとモジュレーター
- サイドバンドの仕組み
- 周波数比と音色の性格
- リニアFMとエクスポネンシャルFM
- 実践的なFMパッチの作り方
- サウンドデモ
- 関連する Takazudo Modular 製品
- MetaModule 対応モジュール
- まとめ
FM合成とは
FM合成は、あるオシレーターの出力で別のオシレーターの周波数を変調する合成方式です。「周波数変調」と訳されるものですが、この記事のタイトルの通り、シリーズで扱ってきた概念の組み合わせで理解できます。
LFOの回で扱ったように、LFOをVCOのピッチ入力につなぐと、ピッチがゆっくりと上下するビブラートになります。これも一種の周波数変調で、LFOの速度が遅い(サブオーディオレート=人間の耳が個別の揺れとして聴き取れる遅い速度域)ので、ピッチが揺れているように聴こえます。
この変調するオシレーターの速度をオーディオレート(20Hz以上)まで上げると、ビブラートとは異なる現象が起きます。ピッチの上下が速すぎて個々の揺れとしては聴こえなくなり、代わりに元の音には存在しなかった新しい周波数成分、「サイドバンド」が出現します。
キャリアとモジュレーター
FM合成では2つのオシレーターに役割があります。
キャリア(Carrier)は、最終的に聴こえる音の基本となるオシレーターです。私たちが耳にするのはこのキャリアの出力です。
モジュレーター(Modulator)は、キャリアの周波数を変調するためのオシレーターです。モジュレーターの出力は直接聴くわけではなく、キャリアの周波数入力に送られます。
モジュラーシンセでの接続は非常にシンプルで、モジュレーター用VCOの出力を、キャリア用VCOのFM入力(またはピッチ入力)につなぐだけです。シリーズで扱ってきたVCOやモジュレーションの知識がそのまま活きる場面です。
サイドバンドの仕組み
FM合成で生まれるサイドバンドは、キャリアの周波数を中心に、モジュレーターの周波数の整数倍の間隔で上下に分布します。
例えばキャリアが440Hz、モジュレーターが220Hzの場合、サイドバンドは440±220Hz、440±440Hz、440±660Hz……つまり220Hz、660Hz、880Hz、0Hz(実際には反転して現れる)、1100Hz……と広がっていきます。
どれだけ多くのサイドバンドが生じるかは、「モジュレーションインデックス」と呼ばれるパラメーターで決まります。モジュレーションインデックスとは、モジュレーターの振幅をその周波数で割った値で、直感的に言えば「どれだけ強くFMをかけるか」です。
モジュレーションインデックスが低いと、キャリアの周波数の近くにわずかなサイドバンドが生じるだけで、元の音に少し倍音が加わったような穏やかな変化になります。インデックスを上げていくとサイドバンドが次々と増え、音がどんどん明るく、複雑になっていきます。さらに上げるとギラギラした、金属的な音になる。このモジュレーションインデックスをリアルタイムに動かす(例えばエンベロープで制御する)ことで、時間とともに音色が変化するダイナミックなサウンドが作れます。
後半のサウンドデモでは、モジュレーションインデックスを上げたときにサイドバンドが広がる様子を、音とスペクトラムの両方で確認できます。
周波数比と音色の性格
キャリアとモジュレーターの周波数の比率が、FM合成の音色を大きく左右します。
整数比のとき
キャリアとモジュレーターの周波数が整数比(1:1、2:1、3:2など)のとき、サイドバンドはすべて倍音列上に乗るため、「ハーモニック」(協和的)なスペクトルが生まれます。ピッチ感のある、音楽的に使いやすい音色になります。
例えば1:1の比率では倍音が豊かな音に、2:1ではオクターブ倍音が強調された音に、1:2では奇数倍音が強い独特の音色になります。
非整数比のとき
周波数比が整数でない場合(1:1.41、1:2.7など)、サイドバンドは倍音列からずれた位置に現れ、「インハーモニック」(非協和的)なスペクトルになります。これが金属的なベルの音や、メタリックなパーカッション、ノイジーなテクスチャーを生み出します。
有名なYamaha DX7の「エレクトリックピアノ」の音色は整数比に近いFMで作られていますし、「ベル」の音色は非整数比のFMによるものです。FM合成が得意とする金属的なサウンドの多くは、この非整数比から生まれています。
リニアFMとエクスポネンシャルFM
モジュラーシンセのVCOには、2種類のFM入力が用意されていることがあります。
リニアFM
モジュレーター信号をキャリアの周波数に直接加算するタイプです。キャリアのピッチが変わっても、サイドバンドの間隔は一定に保たれるため、音域による音色の変化が少ないのが特徴です。安定した、予測しやすいFMサウンドが得られます。FM合成に使うなら基本的にはリニアFMの方が扱いやすいです。
エクスポネンシャルFM
モジュレーター信号をピッチCV(対数的なスケール)に加算するタイプです。アナログVCOでは自然にこの方式になることが多いです。キャリアのピッチによってサイドバンドの関係が変わるため、音域によって音色の印象が変化します。予測しにくい反面、荒々しくエクスプレッシブなサウンドが得られます。
実践的なFMパッチの作り方
モジュラーシンセでFM合成を試すには、基本的に2つのVCOとアッテヌバーター(またはアッテネーター。モジュレーター信号の振幅を絞るためのモジュール)があればOKです。
モジュレーター用VCOの出力をアッテヌバーターに通す
アッテヌバーターの出力をキャリア用VCOのFM入力につなぐ
両方のVCOに同じピッチCVを送る(同じ1V/octソースから分岐)
アッテヌバーターでモジュレーターの振幅を調整することが、実質的にモジュレーションインデックスの制御になります。最初はこのツマミを0から少しずつ上げていくと、音色が穏やかな状態からどんどん複雑になっていく様子が聴けるはずです。
ここにエンベロープジェネレーターを加えて、モジュレーションインデックスを鍵盤を押したタイミングで変化させれば、「アタックで明るく、余韻では柔らかい」といった時間変化のある音色が作れます。これは従来のVCFによるフィルタリングとはまた違ったアプローチの音色制御で、FM合成ならではの表現です。
サウンドデモ
モジュレーターVCOをキャリアVCOの周波数へ入れ、FM合成の最小構成を組んでいます。ケーブル上の量を上げるほどモジュレーションインデックスが増え、Outのスペクトラムにサイドバンドが広がります。
関連する Takazudo Modular 製品
同一の三角波コアのアナログVCOを2基搭載した16HPのデュアルオシレーター。両VCOがスルーゼロFMに対応し、右VCOは左へハードまたはソフトシンク可能、LFOモード切替や6系統の波形出力も備える。

三角波コアに0〜180度の可変位相遅れを持つトライアングル位相アニメーター回路を搭載したアナログVCO。スルーゼロのリニア位相変調(PM)とリニアFM、指数FMに対応し、位相モジュレーションで倍音を描き出す18HPのオシレーター。

スルーゼロリニアFMに対応した三角波コアのアナログVCO。広いチューニングレンジと優れた熱安定性を備え、クラシックなアナログサウンドとTZFMによる複雑な倍音表現をシンプルな12HPで両立する。

VCV Rackのプラグインを物理ノブとジャックで操作できる26HPのハイブリッドモジュール。160以上の内蔵モジュールに加えて1,500を超えるサードパーティプラグインに対応し、microSDとUSB-Cで拡張可能な柔軟なシステム。

MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがFM合成に適しています。
まとめ
FM合成は、LFOによるビブラートと同じ周波数変調を、オーディオレートまで上げた合成方式です。シンプルなサイン波同士の組み合わせから、ベル、エレクトリックピアノ、金属的なパーカッション、攻撃的なベースまで、多彩な音色が作り出せます。
FM合成は少し難しそうなテーマですが、ここまでのシリーズで見てきたVCO、LFO、モジュレーション、アッテヌバーターの延長線上にあります。自分としては、FMは「理屈を完全に理解してから使う」よりも、まず小さくかけて音が変わるポイントを耳で探すのが楽しい分野だと思っています。
これで全20回の「キーワードで理解するモジュラーシンセ」は一区切りです。CV、ゲート、波形、VCO、VCF、VCAから始まり、リズム、ランダム、エフェクト、ポリフォニー、そしてFM合成まで見てきました。ここまで読んでもらえれば、モジュラーシンセのパッチを見たときに「この信号は何を動かしているのか」「このモジュールはどの役割なのか」をかなり追えるようになっているはずです。次はぜひ、気になったキーワードの記事に戻りながら、自分のパッチの中で一つずつ試してみてください。






