今回はミキサーについてです。ミキサーと聞くと、DJが使っている大きなコンソールや、バンドのPAさんが操作する卓上ミキサーを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、モジュラーシンセにおけるミキサーも基本的な役割は同じです。複数の信号を一つにまとめるモジュール。それがミキサーです。
シンプルな概念ですが、パッチが大きくなるほどミキサーの重要性は増していきます。というか、ミキサーなしではちょっと複雑なパッチを組むのが難しいぐらいには必須のモジュールです。
- ミキサーの基本原理
- オーディオミキサー
- CVミキサー
- オフセットの加算
- サブミキシング
- VCAとミキサーの違い
- ユーロラックでの定番モジュール
- サウンドデモ
- 関連する Takazudo Modular 製品
- MetaModule 対応モジュール
- まとめ
ミキサーの基本原理
ミキサーがやっていることは、電気的には単なる「加算」です。入力Aが+2V、入力Bが+3Vなら、出力は+5V。複数の入力信号の電圧を足し合わせて一つの出力にする。これだけです。
この単純な仕組みが、オーディオ信号にもCV信号にも同じように使えるところがミキサーの便利な点です。3つのVCOの出力を混ぜて一つのリッチなサウンドにするのも、LFOとエンベロープの信号を合わせて複合的なモジュレーション信号を作るのも、ミキサーの仕事です。
オーディオミキサー
まず一番わかりやすい使い方がオーディオのミキシングです。
例えばVCOを3つ使っているパッチがあるとします。一つはサブベースのサイン波、一つはメインのソウトゥース波、一つはオクターブ上のスクエア波。これら3つの音を最終的にスピーカーやヘッドフォンで聴くためには、どこかで一つの信号にまとめる必要があります。ここでミキサーの出番です。
各チャンネルにはレベルノブがついているので、サブベースは控えめに、メインのソウトゥースはしっかり出して、スクエア波は味付け程度に……といったバランス調整ができます。
後半のサウンドデモでは、足し合わせる素材ごとのレベルが、最終的な厚みやざらつきにどう効くかを確認できます。
ステレオミキサー
ステレオミキサーの場合は各チャンネルにパン(パンニング)のノブもついていて、音の定位を左右に振り分けることができます。サブベースは真ん中、ソウトゥースはやや左、スクエア波はやや右、のように定位を設定すると、ステレオフィールドに広がりのあるサウンドが作れます。
モジュラーシンセだとモノラル出力のモジュールがほとんどなので、ステレオの音場を作ろうと思ったらステレオミキサーはほぼ必須になります。
CVミキサー
ミキサーのもう一つの重要な使い方がCV信号のミキシングです。モジュレーションの記事で色々なモジュレーションソースを紹介しましたが、一つのパラメーターに対して複数のモジュレーションを同時にかけたい場合、CVミキサーでそれらの信号をまとめてから送ります。
例えばVCFのカットオフに対して、LFOでゆっくり上下させつつ、エンベロープでノートごとの変化もつけたい場合。LFOの出力とエンベロープの出力をCVミキサーに入れ、ミックスした信号をカットオフのCV入力に送ります。
CVミキサーの場合、各チャンネルにアッテヌバーターがついていることが多いです。アッテヌバーターの記事で書いたように、モジュレーション信号は適切なレベルに絞る必要がありますが、CVミキサーにビルトインされていると、レベル調整と加算が一つのモジュールでできて便利です。
オフセットの加算
CVミキサーの地味だけど実用的な使い方に「オフセットの加算」があります。
例えばLFOが-5V〜+5Vのバイポーラ信号(プラスとマイナス両方に振れる信号)を出していて、これをVCFのカットオフに送りたいけど、中心値を少し持ち上げたいという場合。CVミキサーの1チャンネルにLFOを、もう1チャンネルに固定電圧(アッテヌバーターの記事で触れたマニュアルCV)を入れて足し算すると、LFOの動きの中心値をオフセットできます。
具体的には、LFOが-5V〜+5Vで、固定電圧+3Vを足すと、出力は-2V〜+8Vになります。全体的にプラス方向にシフトします。
サブミキシング
パッチが複雑になってくると、信号を段階的にまとめていく「サブミキシング」という考え方が重要になってきます。
例えばドラムセクションでキック、スネア、ハイハット、クラップの4つの音源があるとき、まずこれらをドラムサブミキサーで一つにまとめます。一方でシンセのベースラインとパッド音色をシンセサブミキサーでまとめます。そして最後にドラムミックスとシンセミックスをマスターミキサーで合わせる。
この階層的な構造は、DAWでいうバスやグループトラックと同じ考え方です。各グループのバランスを調整しやすくなりますし、特定のグループだけにエフェクトをかけたい場合にも便利です。
VCAとミキサーの違い
ミキサーとVCAは似ているようで違うものです。VCAは電圧制御で1つの信号のレベルを変えるモジュールですが、ミキサーは複数の信号を足し合わせるモジュールです。
ただ実際には、VCAミキサーという両者を合体させたモジュールもあります。これは各チャンネルのレベルをCVでコントロールできるミキサーで、例えばシーケンサーのCV出力で各チャンネルのレベルをステップごとに変えるような、動的なミキシングが可能になります。
ユーロラックでの定番モジュール
ユーロラック界隈でミキサーと言えば、WMD Performance Mixerのような本格的なものから、Happy Nerding 3xMIAのようなコンパクトなCV/オーディオ兼用ミキサーまで、多種多様なモジュールがあります。パッチの規模や用途に応じて選ぶことになりますが、小さめのシステムでも最低限一つはミキサーを入れておくと、パッチの幅がぐっと広がるかと思います。
サウンドデモ
VCO A、少しデチューンしたVCO B、ノイズをミキサーで足し合わせます。各レベルを変えると、うねり、厚み、ざらつきのバランスがミキサーのスコープにそのまま表れます。
関連する Takazudo Modular 製品
VCO出力から3度や5度などピッチに関連する2音を生成し、モジュラーシステムに手軽にハーモニーや基本的なポリフォニーを追加できるアナログハーモナイザー。デュアルクォンタイザー、周波数-電圧変換器、デュアルVCOとしても運用できる18HPの多機能モジュール。

5chのアッテネーター付きパッシブミキサーを4HPに収めたモジュール。モノラルでもTRSケーブルによるステレオ入力でも扱え、出力レベルはパネル内側の左右LEDで視認できる。

4ch入力×4ch出力のステレオマトリックスミキサー。各ステレオ入力ペアを任意のステレオ出力へルーティング可能。エフェクトセンドや複雑な信号ルーティングに適用。アルミニウムパネル版。

4入力3出力+のマトリックスミキサー。各入力を任意の出力へルーティング可能。オーディオおよびCV信号の複雑なルーティングやフィードバックパッチに最適。アルミニウムパネル版。

ラインレベルとユーロラックレベル間のコンパクトなシグナル変換モジュール。±2Vのラインシグナルと±5Vのユーロラックシグナルを相互変換。アルミニウムパネル版。

5チャンネルのVCAとミキサーを統合したモジュール。各チャンネルはリニア/ログ切替、ソロ/ミックス/ミュート切替、個別出力を装備。

2つのマルチモードフィルターを搭載し、シリーズ/パラレル接続も可能な柔軟な設計。ステレオをLFOで揺らし手も便利。しかもコンパクト。

4系統のゲート信号をトリガー信号に変換するモジュール。短いパルスを必要とするパッチで活躍し、ゲート信号をより多彩に扱えるようにする変換機能を提供。

4chクオンタイザー。直感的なボタン操作でクオンタイザーを楽器のように使用することが可能。コード生成や発展的な機能も多数実装されている、深掘りしがいのあるモジュール。

VCV Rackのプラグインを物理ノブとジャックで操作できる26HPのハイブリッドモジュール。160以上の内蔵モジュールに加えて1,500を超えるサードパーティプラグインに対応し、microSDとUSB-Cで拡張可能な柔軟なシステム。

MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがミキサー機能を実装しています。
まとめ
ミキサーは「複数の信号を一つにまとめる」というシンプルな機能のモジュールですが、オーディオミキシングからCVの合成まで、パッチのあらゆる場面で活躍します。アッテヌバーターと同様、派手さはないけれどパッチの実用性を大きく左右するユーティリティモジュールと言えるでしょう。
次回は、VCOとは性質の違う音源「ノイズ」について見ていきます。ミキサーで混ぜる素材の一つとしても、ランダムなCVの元としても使える、かなり重要な信号源です。







