シリーズ終盤の今回は、単音のパッチから少し視野を広げてみます。モジュラーシンセは基本的にモノフォニック(単音)で使われることが多い構成です。実際、ハードウェアのユーロラックで和音を鳴らそうとすると結構大変です。でも方法が無いわけではないし、ソフトウェアのVCV Rackでは「ポリフォニックケーブル」という仕組みで比較的手軽にポリフォニーが実現できます。今回はそのあたりの話です。
- ポリフォニーとは
- ハードウェアでのポリフォニー
- VCV Rackのポリフォニックケーブル
- CPU負荷の話
- サウンドデモ
- 関連する Takazudo Modular 製品
- MetaModule 対応モジュール
- まとめ
ポリフォニーとは
ポリフォニーとは、複数の独立した音(ボイス)を同時に鳴らすことです。ピアノで和音を弾く、ギターでコードをかき鳴らす、これらは全てポリフォニックな演奏です。
通常のシンセサイザー、例えばJUNO-106のようなポリシンセでは、内部に複数のボイスが用意されていて、鍵盤を押すと自動的に空いているボイスに音が割り当てられます。6ボイスのシンセなら、同時に6つの音を鳴らせるわけです。
ところがモジュラーシンセの場合、VCO、VCF、VCA、エンベロープジェネレーターという一連のシグナルチェーンが、そのまま「1ボイス」に相当します。和音を鳴らしたければ、この一式を複数セット用意しなければなりません。
ハードウェアでのポリフォニー
ハードウェアのユーロラックで4ボイスのポリフォニーを実現しようとすると、VCOが4個、VCFが4個、VCAが4個、エンベロープが4個……と、大量のモジュールが必要になります。さらに入力されたMIDIノートを4つのボイスに振り分けるボイスアロケーターも必要です。コストもスペースも膨大で、これがモジュラーシンセがモノフォニックに使われることが多い理由のひとつなのかなと思います。
パラフォニー
コストを抑えてそれっぽく和音を出す方法として「パラフォニー」があります。これは複数のオシレーターをそれぞれ別のピッチで鳴らしつつ、フィルターやVCA、エンベロープは1セットだけ共有するというアプローチです。
ちゃんとしたポリフォニーでは各ボイスが独立したエンベロープを持つので、ある鍵盤を押したまま別の鍵盤を弾いても、先に押した音のエンベロープは影響を受けません。パラフォニーではエンベロープが共有なので、新しい鍵盤を押すと全ての音のエンベロープが再トリガーされてしまいます。制約はありますが、少ないモジュール数で和音を出せる点が特徴です。
ユニゾン
ポリフォニーとは少し違いますが関連する概念として「ユニゾン」があります。これは複数のオシレーターで同じ音を鳴らし、わずかにデチューン(ピッチをずらす)して重ねるテクニックです。スーパーソー(複数のノコギリ波を重ねた波形)などの音色でよく使われるもので、ポリフォニーの「複数のボイス」を和音ではなく厚みに振り向けた使い方と言えるかもしれません。
VCV Rackのポリフォニックケーブル
VCV Rackでは「ポリフォニックケーブル」という仕組みが導入されており、ハードウェアでの制約を大きく解消しています。
通常のケーブル(モノフォニックケーブル)は1本のケーブルで1つの信号しか運べませんが、ポリフォニックケーブルは1本で最大16チャンネルの独立した信号を同時に運ぶことができます。見た目が少し太いケーブルとして表示されるので、見分けることもできます。
例えばMIDI-to-CVモジュールからポリフォニックCVとゲートを出力すると、4ボイス分のピッチ情報とゲート情報がそれぞれ1本のケーブルに乗ってきます。これをポリフォニック対応のVCOに接続すると、VCO内部で4つのボイスが同時に処理されます。
ポリフォニック対応モジュール
ポリフォニックケーブルを受け取ったモジュールが、各チャンネルを独立して処理するか、最初のチャンネルだけを処理するかは、モジュール次第です。ポリフォニック対応のモジュールは、入力された全チャンネルをそれぞれ独立に処理してくれます。
VCV Rack標準のFundamentalモジュール(VCO、VCF、VCAなど)の多くはポリフォニックに対応しているので、これらを使えば比較的簡単にポリフォニックなパッチが組めます。
SPLITとMERGE
ポリフォニックケーブルの中身を個別に扱いたい場合は、SPLITモジュールでポリフォニックケーブルを個別のモノフォニックチャンネルに分離できます。逆にMERGEモジュールで、個別のモノフォニック信号をポリフォニックケーブルにまとめることができます。
例えば4ボイスのうち1つだけにエフェクトをかけたいとか、各ボイスに異なるモジュレーションを加えたいといった場合に、SPLITで分離して個別に処理し、MERGEで再びまとめるといった使い方ができます。
最終段のミックス
ポリフォニックな信号チェーンの最後では、複数のボイスをミックスしてモノフォニック(またはステレオ)のオーディオ出力にする必要があります。ミキサーモジュールやMIXモジュールでこの集約を行います。
後半のサウンドデモでは、同じ音源構成で1ボイスと4ボイスを切り替え、重なり方の違いを聴けるようにしています。
CPU負荷の話
ポリフォニーは便利ですが、ボイス数が増えるほどCPU負荷が比例して上がります。4ボイスのポリフォニーは、単純に言えばモノフォニックの4倍の処理が必要です。複雑なパッチでポリフォニーを使う場合は、ボイス数を必要最低限に抑えることがパフォーマンスの観点から重要になってきます。
サウンドデモ
C4/E4/G4/C5の4つのVCOをミキサーへ集め、素朴なコード用パッチにしています。Voicesを1 voiceにするとC4だけ、4 voicesにするとCメジャーの和音として重なります。
関連する Takazudo Modular 製品
MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがポリフォニック動作をサポートしています。
まとめ
モジュラーシンセでのポリフォニーは、ハードウェアでは多くのモジュールが必要でハードルが高いものの、VCV Rackのポリフォニックケーブルを使えばかなり手軽に実現できます。コストを抑える方法としてパラフォニーやユニゾンといったバリエーションもあります。
次回はこのシリーズの最終回、「FM合成」について書きます。オシレーター同士をオーディオレートで変調させる、ちょっと上級の音作りテクニックの話です。









