前回のクオンタイザーに続いて、今回はランダムな電圧を実際に取り出すための仕組みを見ていきます。モジュラーシンセを触っていると、「ランダムなメロディを自動で生成したい」とか、「パラメーターをステップ状に変化させたい」みたいな場面が出てきます。そういうとき活躍するのが「サンプル&ホールド」(以下S&H)です。仕組み自体はとてもシンプルなのですが、使い方次第でパッチに多彩な動きを加えられます。
- サンプル&ホールドとは
- 定番パッチ:ノイズ + クロック
- LFOをサンプルする
- オーディオレートでの使用
- トラック&ホールド
- スルーパラメーター
- サウンドデモ
- 関連する Takazudo Modular 製品
- MetaModule 対応モジュール
- まとめ
サンプル&ホールドとは
S&Hの動作は名前の通り、「サンプル(標本化)」して「ホールド(保持)」するというものです。
具体的には、2つの入力を持っています。1つは「信号入力」で、サンプルしたい電圧のソースです。もう1つは「トリガー入力」で、いつサンプルするかのタイミングを決めます。
トリガーパルスが来た瞬間、S&Hは信号入力にある電圧を読み取り、それを出力にそのまま保持します。次のトリガーが来るまで、出力はその電圧を一定に保ち続けます。次のトリガーが来ると、再び信号入力の電圧を読み取り、新しい値を保持する。この繰り返しです。
イメージとしては、流れている川の水を、一定間隔でコップですくうようなものでしょうか。すくった水の量は、すくった瞬間の水位で決まり、次にすくうまではそのコップの中身は変わらない。そんな感じです。
定番パッチ:ノイズ + クロック
S&Hの最も有名な使い方は、EP.15で扱ったノイズを信号入力に、クロックをトリガー入力に使うパッチです。
ノイズはランダムな電圧を絶え間なく出力しているので、クロックのタイミングでそれをサンプルすると、毎回異なるランダムな電圧が得られます。結果として、クロックのテンポに合わせたランダムなステップ電圧の列が出力されるわけです。
これをVCOのピッチ入力に送ると、クロックのタイミングで音程がランダムに変わる「ピコピコ」したフレーズになります。SF映画のコンピューターが考え中のような音になります。さらにクオンタイザーをS&Hの後段に挟めば、ランダムだけどスケールに収まったメロディが生成されます。前回のクオンタイザーの記事でも触れた組み合わせですが、このS&H → クオンタイザー → VCOのパッチは、モジュラーシンセの定番中の定番と言えるでしょう。
後半のサウンドデモでは、S&Hがランダム電圧を取り出して次のトリガーまで保持する動きを確認できます。
LFOをサンプルする
S&Hの入力はノイズに限りません。LFOをサンプルしても多彩な結果が得られます。
例えば、三角波のLFOをゆっくりとしたクロックでサンプルすると、三角波の「階段版」のようなステップパターンが生まれます。上がって下がってを繰り返す、規則的だけどステップ状の電圧列です。
LFOの周波数とクロックの周波数の関係で、出てくるパターンが変わります。LFOが遅くてクロックが速ければ、緩やかな変化を細かくサンプルするので滑らかな階段になります。逆にLFOが速くてクロックが遅いと、大きなジャンプが生まれます。二つの周波数が整数比ならパターンは繰り返し、そうでなければ微妙に異なるパターンが延々と続きます。
オーディオレートでの使用
S&Hは通常、CVレベル(低い周波数)で使うことが多いですが、サンプリングレートをオーディオレートまで上げるとまた違った効果が得られます。
オーディオ信号をゆっくりしたクロックでサンプルすると、ビットクラッシャー的(音質を粗くする)なローファイエフェクトが生まれます。サンプリング周波数が低いことで、元の音から大きくかけ離れた荒い質感になります。これはいわゆるエイリアシング(折り返し歪み)と呼ばれる現象で、意図的に使うとグリッチーな音作りに活かせます。
トラック&ホールド
S&Hの親戚として「トラック&ホールド」(T&H)というモードを持つモジュールもあります。
S&Hがトリガーの瞬間だけ電圧を読み取るのに対し、T&Hではゲート信号がハイの間は入力をそのまま通し(トラック)、ゲートがローになった瞬間の電圧を保持(ホールド)します。S&Hが完全にステップ状の出力になるのに対し、T&Hはゲートが開いている間は滑らかに追従するので、少し柔らかい変化が得られます。
スルーパラメーター
一部のS&Hモジュールには「スルー」というパラメーターがあります。これは保持した値から次の値に切り替わるとき、パッと一瞬で切り替わるのではなく、ゆっくりと滑らかに移行させるためのものです。ポルタメント的(音程を滑らかに繋ぐ)な効果が加わるので、ピッチに使うときなどに「ニュッ」とした動きが加わります。
サウンドデモ
NoiseをS&Hへ送り、Clockのトリガーごとに新しいランダムCVを保持します。保持されたCVでVCOのピッチが切り替わるので、階段状のスコープとランダムな音程変化を同時に追えます。
関連する Takazudo Modular 製品
MetaModule 対応モジュール
以下の MetaModule 対応モジュールがサンプル&ホールド機能を実装しています。
まとめ
S&Hは非常にシンプルな動作のモジュールですが、何をサンプルするか、どのタイミングでサンプルするかの組み合わせで、多彩な結果が得られます。ノイズと組み合わせたランダムメロディ生成、LFOのステップ化、ローファイエフェクトなど、パッチの様々な場面で使われるモジュールです。
次回は時間軸方向のエフェクト、「ディレイ」について見ていきます。エコーやアンビエントテクスチャーなど、空間的な広がりを作り出すエフェクトの話です。






