コラム006: モジュラーシンセ電源入門 その2

作成: 2025/03/17 Author: Takazudo

今回もモジュラーシンセの電源入門的な話を書きます。モジュラーシンセの電源ってよく分からんなと言う人向けのコラム第2回。前回は+12V、Ground、-12Vがあるんだよという話、そして電圧とは?電流とは?みたいな話をした後、モジュラーシンセの電源でライトを光らせてみる等々の話を書きました。

今回はその続きということで、+5V電圧、ケースやバスボード、ACアダプター等について、順に解説して参ります。

+5Vは?CVとGate?

前回、+12Vと-12Vを使うんだぞという話を書きましたが、+5Vの電圧を使うモジュールもあります。前回使った電源ソケットの端子の写真をもう一度掲載します。オレンジで示した、上から3段目の端子ですね。

写真:端子と役割

そしてGateが一番上の段、CVが上から2段目ですね。これらについて順に見ていきます。

+5V

この+5V端子からは、前回解説した+12Vよりも低い、+5Vの電圧が提供されます。+5Vというのは電気回路的には便利な電圧でして、+5V以下で動作するICは多いです。

例えばUSB-A、USB-Bで給電される電圧は+5Vであり、パソコンの周辺機器なんかでACアダプタを特に用意せずとも動くものというのは、この+5Vの電圧をパソコンから受け取って動作していたりします。なので、そういう周辺機器の中で使われている部品はだいたい、+5V以下で動作するものということです。

昨今のモジュラーシンセでは、高度な演算処理を行えるデジタルのICも多く使われるようになっています。となると、ふーん+5Vを便利に使えるじゃん?って思われるところですが、+5Vの電圧を電源から受け取って動作するモジュールは、実は数が少なくなっています。たぶん、割合的にも全体の5%以下だと思います。

おそらく、この記事をご覧になっている方が持っているモジュールを見ても、片側が小さいタイプのコネクタであるリボンケーブルを使って電源を供給するモジュールの方が多いのではないでしょうか。比較用に両側が16ピンで大きいタイプのコネクタのリボンケーブルも並べておきます。

写真:リボンケーブル1
写真:リボンケーブル2

このコンパクトな方のコネクタの穴の数を数えてみると、2×5で合計10。端から順に割り当てを見ていくと、

  • -12V
  • Ground
  • Ground
  • Ground
  • +12V

……と、そこまでしか接続されないことが分かります。つまり、そもそもモジュールへ+5Vの電流が送られてこないのです。

こういったモジュールの中では、+5V以下の電圧を使っていないわけでは無く、必要であれば、あえてモジュール内で電圧を落とす回路を用意したりして、+12Vと-12Vだけを受け取って動作するようになっていることが多いです。

え?どういうこと?+5Vがあるんだからそれを使えばいいじゃ無いか!とシンプルに考えれば思いますが、端的に言うと、+12Vと-12Vの2つの電圧だけを使うよう設計されているモジュールが多いため、それに合わせて皆作っているという感じのようです。

電源供給を行うケースや電源モジュールの方でも、+5Vの電圧をそもそも供給しておらず、+12Vと-12Vだけを供給するものもあります。ほか、+5Vの電圧は供給しているものの、その許容電流量はかなり低めになっていたりであるとか。

そんなわけで、世の中に出回っているモジュールの多くは、+12V、-12Vの電圧を基本として動く。そして中には+5Vを必要とする物もあるという風に覚えておくと良いように思います。

このモジュールは+5Vを使っているの?

お持ちのモジュールが+5Vを使うかどうかは、そのメーカーのWebサイトを見て頂くのが確実ですが、ModularGrid等を見ても、大体正確な情報が得られます。

CV端子、Gate端子

ほか、先ほどの写真で示したように、電源端子にはCVGateという端子もあるのですが、世の中的にこの端子はほぼ使われていません。この端子はCVやGateを、同じケース内で受け渡しするために使われたり、プリセット変更をモジュール間で行うためにデジタル信号をやりとりするために使われることがあります。

ですが、モジュラーシンセを普段いじっている方はご存じの通り、CVやGateは現在、パッチケーブルを使ってやりとりすることがほとんどです。なので、たまにそういうCV、Gate端子を使うモジュールも世の中にはあるぐらいの認識で良いかと思います。そういうモジュールに出会ったら、あーこれで使うのかぐらいの感じで思いだして頂ければと。

ケース、バスボード、電源

そんなわけで、+12V、-12Vが基本。加えて+5Vを使うこともたまにありますというわけです。

次に、モジュラーシンセのケースについて、突っ込んで見ていきましょう。電源?よく知らんがオレは買ったケースについてるやつ使ってるだけだぞ!という方は多いかと思います。

何かしら大きめのケースをお持ちでしたら、モジュラーシンセの電源リボンケーブルを指すソケットがたくさんついている、バスボードが大抵備え付けられていることでしょう。当店でもzudo-busっていう、Takazudo謹製のバスボードを販売していますが、以下のようなものです。

写真:zudo-bus

あ、そうそう、こういうところにリボンケーブルさして使ってますよーという。

ほか、例えばTakazudoの家にあるケースですと、ArturiaのRackBrute 6Uというケースがありまして、このケースで言えば、以下の部分がバスボードです。

たくさんのモジュールが接続できるようになっていますよね。

それでこのバスボードなんですが、このバスボード自体が電力を作り出しているわけではないんですよ。(このRackBrute 6Uでは)

実際にモジュール群が動作するための電力を供給している、つまりは+12V、+5V、-12Vの電圧を発生させているのは以下の部分。

この部分が電源ユニット(PSU: Power Supply Unit)と呼ばれる、モジュラーシンセに必要な電圧を作る装置なんです。

ここではまず、一口にモジュラーシンセのケースと言いましても、それは具体的には以下の3種類がセットになっていることがあるという認識を持って頂ければと。

  1. ただモジュール群を収める外箱
  2. 電源ユニット(PSU: Power Supply Unit)
  3. バスボード

それなりの値段がするケースであれば、この3つが全てセットになっているものとして販売されています。ですが、これらはバラバラに用意しても全く問題ありません。なんだったら、家にある余っている木箱に、寸法だけ合わせてモジュールをネジで固定し、電源ユニットやバスボードを自分で取り付けて使ったって全然モジュラーシンセは始められます。ほか、バスボードに電源ユニットがくっついてセットになっているようなものもあります。

たぶん、モジュラーシンセを初めたての方は、この3つは別のものであり、セットになって販売されているということ自体分からなくて普通かと思うので、そのことをまずご理解頂けると良いかと思います。

バスボード

さて、そんなわけで次はバスボードについて。その電源ソケットがたくさんついているバスボードとはなんなのか?

バスボードとは、前回例に挙げた電池と豆電球の例で言うと、以下のように複数の豆電球へと電源を提供するためのものです。

図:バスボードのイメージ

え?これのどこがバスボードなのかって?
横の銅線です。乾電池から伸びている2本の。

仮にこの線が無いと、それぞれの豆電球は全部直接電池に繋げないとならないですよね。この豆電球はモジュラーシンセでのモジュールに相当するイメージですので、モジュラーシンセのケースの中でこれをやったら、電源ユニットへと全部モジュールのリボンケーブルを繋げないとならなくなっちゃいます。でも電源ユニットにそんなに電源ソケット付けるわけにはいかないので、そういうのはバスボードでやってという具合です。

このように豆電球へと電流を流すと、いずれの豆電球へも等しく電気が供給されます。実際のバスボードも、ただこのようにそれぞれのモジュールへと並列で電流を渡すものであり、回路的にはかなり単純なものです。小学生の頃習った気がする並列回路ってやつですね。

一応補足としては、乾電池と豆電球ですと、プラス極とマイナス極だけですが、モジュラーシンセの場合は、+12V、Ground、-12V、+5V、Gate、CVに分かれているので、それぞれのピンがバスボード上で全て繋がっています。

なお、このバスボードは以下のようなフライングバスケーブルと呼ばれる、リボンケーブルのタコ足配線みたいなケーブルでも代替することが出来ます。これは、比較的安価な電源モジュールだと同梱されてついてくることが多いです。

写真:フライングバスケーブル

これもそれぞれのピンがただ一つの導線で繋がっているだけのものであって、このケーブルが基板になっているものがバスボードだと考えた方がわかりやすいかも知れません。

そんなわけで、バスボードってかなりシンプルなやつなんです。一応、フライングバスケーブルと比較すると、バスボードだと大抵の場合、ちょいとノイズ対策がされてたりするという違いがあります。おそらくこだわって作られているバスボードは、そのあたりを深く研究して作られていたりするのかも知れませんが、基本的にはこのような役割をするのがバスボードです。

フライングバスケーブルと電流の量

この項の説明だけ読むと、え、じゃあフライングバスケーブルの方が良いや。安いし取り回ししやすいしと思われるかも知れません。ですが、フライングバスケーブルに使われている銅線は細いため、あまりにたくさんのモジュールを繋げると、繋がっているモジュール群が必要とする電流の総量が、銅線が伝達できる電流の量を越えてしまう可能性があります。

これは、フライングバスケーブルについて、家庭用コンセントのタコ足配線の電源同じようなものであると認識しておくと良いかと思います。タコ足配線の電源タップには、最大1500Wなどという具合に許容できる電力量が書いてあったりするのですが、それと同じで、フライングバスケーブルにも伝達できる電流の上限があります。

それなりの数のモジュールを収められるケースであれば、ちゃんとバスボードが備わっていることが多いです。このような作りになっている背景には、フライングバスケーブルのデメリットが考慮されていると考えておいて良いかと思われます。まぁあとは固定されていると使いやすいですしね。

電源ユニット

だんだんとケースと電源が分解されてきました。次に実際にモジュール群に流す電気を作る、電源ユニットについてです。電源ユニットはPower Supply Unit。略してPSUとも呼ばれます。

電源ユニットは、先ほど例に挙げたRackBrute 6Uですと、以下のように5HPのモジュールとして取り付けられており、バスボードと太いケーブルで接続されています。

写真:RackBrute6Uの電源

比較的安価な電源ユニットは、このように一つのモジュールとして取り付けられるようになっているものが多いです。

ほか、Takazudo家にあるものですと、以下は電源モジュール単品で販売されている、Konstant LabのHammerPWRという製品です。この電源ユニットはACアダプター、バスボードは別売りであり、それらは自分で用意し、好きにケース等を作るために使用されることを想定した製品です。

写真:HammerPWR

このほか、ケースによっては、バスボードと一体になっていたりなど、このあたりの作りは様々です。

この電源ユニット。この仕組みには色々とバリエーションがありますが、ごくごく一般的な構成で考えますと、ACアダプタを経由して渡ってくる電気を、電源ユニット内の回路により、+12V、+5V、-12Vの固定された電圧へと変換するという仕事をするものです。

乾電池と豆電球の例に立ち戻って考えますと、乾電池には+極とー極がありました。これをモジュラーで考えると、+12VとGroundと照らし合わせて考えられます。この乾電池プラスマイナスの組み合わせが他にも、+5VとGround、-12VとGroundと、3種類ぶんあるような感じです。

以下の図は、電源ユニット〜バスボード〜リボンケーブル〜モジュールを接続したイメージ図です。黄色とピンクの矢印が電流の流れを示しています。緑色の部分がリボンケーブル、青の線がバスボードです。

図:電流の流れのイメージ

ピンクの矢印だけちょっとややこしいのですが、これは-12V電圧を作る部分のみ、電流が逆に流れるので、Groundから電流が逆向きに流れています。このあたりは前回の記事の内容と照らし合わせて考えてみて頂ければと。

この電源ユニット自体は、そのように電圧変換を行い、バスボードやフライングバスケーブルを介し、各々のモジュールに必要な電圧の電流を供給する役割を果たします。

電源ユニットの発熱

この電源ユニットはそれなりに熱を持つことがありますが、これはこの電圧変換に使われる部品の特性によるものです。例えば、安定した電圧を作るリニアレギュレーターという部品のひとつにLM7812というものがありますが、これは+12Vを固定出力するためのものです。

実に気の利いた部品ですが、この部品を動作させるためには+14〜+18Vぐらいの電圧を受け取り続ける必要があります。ちょっと強めの電圧をもらい、+12Vをオーバーした部分をバッサリ削ることで、綺麗な+12Vを安定して出力できる。そんな感じです。ただ、そうして削った部分の電圧は熱として放出される。そういうたぐいの部品がこの電源ユニットでは使われるため、熱くなることがあります。ほとんどの部品は高熱になると性能が落ちたり故障の原因になるため、ヒートシンクがこのような部品とセットで使われることが多いです。当記事で掲載しているRackBrute6Uの電源ユニットにも、金属の覆いのような部分がその役割をしています。

ACアダプター

そんな電源ユニット、ほとんどの場合、ACアダプター経由で電気を受け取ります。家庭のコンセントから電気を受け取るわけですが、ご存じの通り、日本の家庭用のコンセントは100Vです。これに対し、モジュラーシンセのモジュールらが使う電圧は+12V、+5V、-12Vとなっています。この電圧と比較すると、100Vは高電圧すぎます。

そしてそのような電源ユニットの多くは、100Vもの高電圧を直接受け取る想定で作られていないものがほとんどです。端的に言って、100Vもの電圧は不要ですし、直接扱うのもそれなりに危険です。実際に電源ユニットが必要な電圧は、大抵+15V〜+20Vぐらいです。そのくらいの低く調整された電圧を電源ユニットが受け取り、回路であれこれ変換して+12V、+5V、-12Vへと変換しています。

写真:ACアダプター

ではその100Vから15Vぐらいへと電圧を変換してくれるのは何か? それがACアダプターです。パソコンや家電でよく、電源と機器の間にデカいブロック上の装置がついていたり、ACアダプタ自体が大きくて邪魔だなとか感じることが多いかと思いますが、あれは100Vもの高電圧を減らし、家電で使いやすい電圧にまで落とす役割を果たしてくれています。あのブロックが無ければ、家電の中に電圧を落とす回路が必要になるのです。

そんなわけで、モジュラーシンセを付け外しする際、感電しないか心配!と感じられている方がいらっしゃいましたら、そこに流れている電圧はそんな100Vもの高い電圧ではいので、そこまで怖がる必要は無いと考えて頂いて問題ないです。※

乾電池が1.5V、USB-A/Bが5V、前回照らしたLEDのライト、Wi-Fiルータが12Vぐらいと考えると、なんとなくイメージがつくかもしれません。逆に100Vの高電圧を直接使うのは、電気ストーブとかドライヤーとかですね。

モジュラーシンセを扱う際に気をつける必要があるのは、感電よりもむしろモジュール自体の故障の方かと思います。回路に電気が流れている時に、ICや導線部分がむき出しになっている部分を湿った手で触ってしまうと、意図しない通電が発生し、デリケートな部品が壊れてしまう可能性があります。今回、5V以下で動作するICが多いという話を書きましたが、そういったICに12Vが流れてくると壊れます。これは、ICの中の部品が、そのような電圧で動くように考慮されていないためです。なので、モジュールの付け外し時には、必ず電源をオフにして作業されることを徹底して下さい。

余談ですが、Takazudoは子供の頃、興味本位で豆電球をコンセントに直接差し込み、一瞬でものすごく明るく光った後、焼け焦げて衝撃を受けたという思い出があります。今考えるとアレは死にかけてました。マネしないようご注意下さい。豆電球も高電圧がかかると壊れるってことですね。

※ ACアダプターではなく、直接100Vを受け取る電源ユニットも存在するため、そのような電源ユニットを使う場合は、取扱を慎重に行う必要があります。

今回は+5V、ケース、バスボード、電源ユニット、ACアダプターについて書きました。

電源入門はまだ続きます……!
次回は電流の量などについて書く予定です。


続き執筆済み。以下よりご参照ください。