コラム007: モジュラーシンセ電源入門 その3

作成: 2025/03/25 Author: Takazudo

今回もモジュラーシンセの電源入門的な話を書きます。モジュラーシンセの電源ってよく分からんなと言う人向けのコラム第3回。前回は電源ユニット、バスボード、ACアダプター等について書きました。今回はやっとモジュラーシンセのモジュール自体の話、電流の大きさについて解説していきます。

前回までの内容はこちら。

電流の大きさって?

前回までで、電圧は水が落ちる高さだとか、流れる水の量が電流だとか解説してきました。そして流れるエネルギーを使って豆電球やらモジュラーが動くだとか。そういう理屈はなんとなく分かったとして、モジュラーシンセを買うとき、ケースや電源のことを考えるときに気をつけないといけないことはなんなのか? ここで重要なのは、使うモジュール群の消費電流の合計と、電源の供給できる電流の大きさです。

まず再び豆電球登場。また豆電球から考えていきましょう。
1.5Vの単三電池で豆電球を光らせます。

図:豆電球

1.5Vというのが電圧。水で言えばどのくらいの高さから水が落ちてくるか、そしてその流れる水の量が電流みたいな話をしましたが。一般的な豆電球の場合、1.5Vの電池ですと、だいたい200mA〜300mAの電流が流れるそうです。mAというのはミリアンペアと読み、1000mAで1A(アンペア)です。

さて、この200mAってどうやって決まってるんでしょう。

これは、回路において、どのくらい電流の流れにくいか?により決定されます。ポイントとしては、「流れやすいか」ではなくて「流れにくいか」です。何かしら電流の流れを妨害するものが回路内にありまして、それにより電流が流れにくくなります。この「電流の流れにくさ」のことを抵抗と呼びます。また、回路全体の中で、電池などの電源から見て電力を消費する側の部分のことを負荷と呼びます。この例においては、豆電球自体が負荷です。そしてその豆電球は、一定の抵抗を持っているわけです。

水で例えると、水道をひねっても、ホースを滅茶苦茶強く握ってれば全然水がちょっとしか流れませんよね。このホースを握る力が抵抗のようなものです。そういう風に握っている人がいるのであれば、その部分が負荷ですよと。

このケースでの豆電球の抵抗はどのくらいか? このあたりの計算にはオームの法則というものがありまして、それは以下のようなものです。

電圧 = 電流 × 抵抗

中学生の時にやった? かどうか自分は全然覚えてませんでしたが、例えばこの時、豆電球自体は7.5Ω程度の抵抗を持っている。そういう仕様の豆電球ですといって販売されており、ここに1.5Vの電圧をかけると、あらどのくらいの電流が流れるのかな? この式に当てはめますと……

1.5V = 電流 × 7.5Ω

となり、1.5V ÷ 7.5Ω → 0.2A、なるほど200mAか!と計算できるという具合です。

ここまでの内容をざっとまとめますと……

  • ホースを握る力が強ければ(抵抗値が高ければ)流れる水(電流)は少なくなる
  • ホースを握る力が弱ければ(抵抗値が低ければ)流れる水(電流)はたくさんになる

という感じです。

電流の大きさ参考

電池だと200mA〜300mAぐらいとのことでしたが、他のものだとどのくらいなのか。参考までに以下のような家電での電流の大きさを示しておきます。

この「抵抗が電流の大きさを決める」というのは、全く抵抗が無い状態から考えるとイメージしやすいかもしれません。例えばこの乾電池の例ですと、プラス極とマイナス極を直接銅線で繋げると何が起こるか。この状態はいわゆるショート(短絡)で、電流の流れを妨げるものがほぼ無いため、大量の電流が一気に流れることになります。

蛇口とホースの例で言えば、ホースを一切握らず、最大の勢いでの水を放出している状態です。この状態をベースに、間に電流の流れを邪魔する部品を混ぜ、必要な電流を作って部品を動かすというイメージだとわかりやすいかも知れません。

モジュラーシンセの使う電流の大きさ

モジュラーシンセにおいては、それぞれのモジュールについて、どのくらいの電流を消費するかという消費電流が、たいていの場合、仕様として示されています。当店のWebサイトでも大体のモジュール紹介記事に記載していますが、自分の持っているモジュールの消費電流を知りたければ、とりあえず以下のModularGridを参照してチェックするのが早いかも知れません。

このWebサイトは、モジュラーシンセサイザーのデータベースになっており、メーカーやモジュールを自作する方が、何かリリースしたら自分で登録でもらうことで成り立っているWebサイトです。

例えばこのWebサイトにて、当店で取り扱っているADDAC112 VC Looper & Granular Processorを見てみると……

この「Current Draw」(消費電流)の欄に、以下のように記載されています。

  • 240 mA +12V
  • 70 mA -12v
  • 0 mA 5V

これは、以下のことを示しています。

  • +12V電圧を240mA使う
  • -12V電圧を70mA使う
  • +5V電圧は使わない

前項で書いたように、電流の大きさは電圧と抵抗によって決まる。そしてユーロラックモジュラーシンセの場合、電圧は+12V/-12V/+5Vの三種類と決まっています。そして部品があれこれモジュールの中に入っているわけでこれは不変。なので

電圧 = 電流 × 抵抗

の関係から、使われる電流の大きさがそれぞれモジュールごとに決まるわけです。そしてこの消費電流はモジュールごとに異なります。

まぁ、そんな深く考えずとも、こういう風にモジュールの仕様として消費電流が書かれてるので、大体このくらい使うのね〜ぐらいに考えておいて大丈夫です。

これから先は抵抗は出てこないですが、あえて抵抗の話をしたのは、モジュールごとに部品は固定されているから、そこには電流の流れを妨げる抵抗が存在している。そして電圧は固定(+12V/+5V/-12V)。なので、消費電流はモジュールごとに大体決まっているというのを理解する助けになるかもと思って書きました。

じゃんじゃん電流を使うモジュールもあれば、あんまり電流を使わないモジュールもありまして、それはモジュールの作り次第です。

消費電流の考え方

この消費電流なんですが、完全に正確なものでは無く、あくまで参考値として捉えておいた方が良いと覚えておく必要があります。

例えば、ボタンを押している間だけサイン波が鳴るみたいな、ごくシンプルなモジュールを想像してみてください。こういったモジュールは、スイッチが押されたときに初めて回路が繋がり、電流が流れてサイン波を生み出すみたいな設計になっているはずです(厳密には色々あると思いますが、ごくシンプルな設計であると仮定して)。だとすると、ボタンが押されるまではほぼ電気が通っていない状態でして、その間の消費電流はほぼゼロに近いと考えられるでしょう。

写真:OXI Coral

ですが、デジタルなICをコアにして作られているモジュールについては、ちょっと事情が違います。前項のADDAC112や、その他当店で扱っているものですと、Vector WaveOXI Coralは、通電すると、部品の一部であるICの中にあるOS的なソフトウェアが立ち上がり、あれこれ音を鳴らすようなタイプのモジュールです。このタイプのモジュールの場合、音を鳴らしていなくてもずっと電流を消費し続けます。これはなんと言うか、パソコンでモニタの電源切っても動いてるみたいな感じです。

また、モジュールが消費する電流量は、そのモジュールが生み出している波形の大きさ、LEDの明るさ、かけているエフェクトの種類などなど、様々な要素により、常に大小変化しています。なので、単純に「いつも100mA使ってます!」と決めることは難しく、「このくらい消費するかも」ぐらいの値でしか示すことができません。

実際のところ、モジュールを作っている方は、このModularGridに掲載しているような消費電流をどのように計測しているのでしょうか。豆電球を光らせるだけなら消費電流も単純に分かりますが、実際にモジュールとなると回路も複雑になりますし、あれこれ理論値として算出するというよりかは、電源とモジュールを接続する時に間にテスターを挟み、消費電流量の大きくなる使い方で実際に動かしてみて、その時の電流を計測したりしているのではないかという気がします。

まぁそんなわけで、200mA使うとかかれていても、あれこれハードに使っていたら300mAぐらいになっているかもしれませんし、もしかしたら平均的には100mAぐらいかもしれないぐらいに考えておいた方が良いです。

モジュールごとの消費電流例

では実際に、それぞれのモジュールはどのくらいの電流を消費するのでしょうか。当店で取り扱っているモジュールについて、いくつか種類の違うものを混ぜつつ、ピックアップして調べてみました。以下がその表になります。

メーカーモジュール名+12V-12V+5V
ADDAC SystemADDAC701.REV2 VCO60mA60mA0mA8HP
ADDAC SystemADDAC106 T-Noiseworks40mA40mA0mA8HP
OXI InstrumentsOXI Coral110mA10mA0mA14HP
AI SynthesisStereo Matrix Mixer20mA20mA0mA18HP
AI SynthesisAI017 Low Pass Gate19mA17mA0mA8HP
Weston Precision AudioAD11075mA35mA0mA16HP
Weston Precision AudioH1 Analog Harmonizer200mA85mA0mA18HP
RYK ModularNight Rider52mA9mA0mA16HP
Meng QiDPLPG0A0A0A2HP

この表から分かることをまとめてみましょう。

+5Vを使っているモジュールは無い

前回、+5Vはあまり使われていないと書きましたが、ここでピックアップしたモジュール群を見ても、やはり+5Vを使っているモジュールは少ないということを確認出来ます。もちろんこれはあえて+5Vを使用しているモジュールを意図的に選んでいないとかではありません。実際に少ないんです。と言うか、あったらここに掲載したかったです。

デジタルモジュールの消費電流が大きい

写真:H1

前項で、デジタルな部品を使っているモジュールは常に電流を消費すると書きましたが、そのようなデジタルモジュールは消費電流も高い傾向があります。

この中ですと一番+12Vを多く消費するのはH1 Analog Harmonizerでして、これは入力された波形からピッチを算出し、3度上、5度上などの波形をそこから作りだし、手軽に調和された音を作ることが出来るモジュールです。このモジュールにはメニューで色々設定したりする機能もついているので、デジタルなICが使われているのはほぼ確実です。

二番目に消費電流が多いOXI Coralはマルチティンバーのシンセモジュールで、ポリフォニック・シンセとして使えるほか、さまざまなエフェクトもかけられます。音作りの大部分はデジタルIC上で動作するソフトウェアによって行われており、高度な演算処理によって多彩なサウンドを生成することが出来ます。

H1は+12Vを200mA、Coralは+12Vを110mAと使っており、この2つのデジタル技術が使われているモジュールが、この中ではトップ2の消費電流量です。

-12Vよりも+12Vのほうが消費電流が多い

全体を俯瞰して見てみると、-12Vよりも+12Vの方が消費電流が多い傾向にあることが分かります。-12Vの方が消費電流が高いモジュールは一つもありません。

仮にこれらモジュールを一つのケースに詰めて使うとすると、これら消費電流により導かれる総消費電流は、+12V側が576mA、-12V側が276mAになります。+12V側は、-12V側の2倍以上の消費電流になっています。このようなモジュールが多い理由としては、プラスとマイナス両方の電圧を使う部品の数が少ないためです。

一般的な電子部品の多くは、一方向からの電流を受けて動作するものが多いです。前項で挙げたデジタルモジュールだと言っている部品で使われるIC、複雑なことをしたいときに使われるArduino等のマイコン、小さいディスプレイ、LEDなどなど。その様な部品を使う時、素直に設計すればプラス方向の電圧だけを使うので、+12V側の電流供給を多く必要とします。豆電球も片方からの電流の流れで動かしてましたよね。

これに対し、例えばオシレーターに使われるICがサイン波を作るような場合、プラス方向にもマイナス方向にも、同じだけ電圧を発生させる必要があります。このような部品は、プラス方向だけではなく、マイナス方向の電圧も供給しなければ、正常に動作しません。なので、-12V側の電圧も使用して動作しているのです。

そんなわけで、モジュラーシンセにおいては、部品の中には後者のようなものも多く存在するものの、そのような部品以外は基本、+12V側からの電流で動作するように設計されることが多いので、+12Vの消費電流の方が相対的に多くなります。

消費電流がゼロのモジュールもある

写真:パッシブモジュール

この表を見て気付かれると思いますが、最後のDPLPGは、消費電流が全てゼロです。そしてこのモジュールには電源をとるためのピン自体ついていません。ですがちゃんと動作します。これはなぜか? このようなモジュールはパッシブモジュールと呼ばれ、追加の電圧を必要としない設計になっています。

どうしてそんなことが可能なのか?というと、それは単純に、回路として追加の電圧で動作する部品が一切使われていないためです。このDPLPGで言いますと、これは入力されたシグナルを、ただ削るだけのものです。入力されてくるのが何かサイン波であったとして、その振れ幅が±5Vだとしたら、出力されるのはそれ以下の電圧のシグナルであるという具合に。

回路としては、ローパスゲートの特徴である、高音ほどフィルター効果で削られるという特性がありますが、これはキャパシタという部品の特性を利用したものであり、追加の電圧を必要としません。細かいことを書くとキリが無いので簡単な説明にとどめますが、つまるところ、追加の電圧を必要としないシンプルな構造のモジュールであれば、このように電源の供給が不要なものもあります。

おそらく、頻繁に見かけるのはパッシブマルチプルでしょう。当店でもAI Synthesis: AI001 Multipleがこれに該当します。

消費電流の総量

さて、そんな風にそれぞれのモジュールで消費電流があるんだねってことなわけですが、電源のことを考えるときに重要なのは、これらモジュールらの、消費電流の合計です。前項でもちょっと触れましたが、これら消費電流を全部足すと、以下になります。

  • +12V: 576mA
  • -12V: 276mA
  • +5V: 0mA

前回の話では、電源ユニットからバスボード経由で、それぞれのモジュールへ、並列で電気が供給されるということでした。これは、第一回で説明した図を流用すると、以下のようにそれぞれのモジュールを動かすための水を供給しているような感じです。

図:複数モジュールへの電流供給のイメージ

だとしたらどうするべきか? それはこれらモジュールが動作するために必要な量の水、つまりはこれらを全てカバーしきれる、十分な電流供給能力を持つ電源ユニットを使用する必要があるということです。

そして、モジュールの仕様にある消費電流はあくまで参考値。であるとすれば、今回登場したモジュール群を全部動かすには、余裕を見て見積もるとすればだいたい……

  • +12V: 800mA
  • -12V: 400mA
  • +5V: 不要

このくらいの電流を流せる電源ユニットがあれば十分ということになります。

まだ終わらなかったので次回に続きます……!
次回はその電源ユニットの方の電流について、あと注意しないといけないことについてです。


続き執筆済み。以下よりご参照ください。