
今回もモジュラーシンセの電源入門的な話を書きます。モジュラーシンセの電源ってよく分からんなと言う人向けのコラム第4回。ここまでで、電圧とか電流とか、バスボードにACアダプタに、モジュール毎の消費電流等、解説してきました。今回は最終回、電源ユニットの定格電流についてと、キャパをオーバーしてしまうと何が起きるかについて解説していきます。
前回までの内容はこちら。
電源ユニットの定格電流
今回は主に電源ユニットの話です。まずは定格電流と言う言葉について。定格電流というのは、その電源ユニットが安全に使える範囲 の電流の総量のことを指します。前回モジュール毎に消費電流が異なるという話をしました。その表を以下に再度掲載します。
メーカー | モジュール名 | +12V | -12V | +5V | 幅 |
---|---|---|---|---|---|
ADDAC System | ADDAC701.REV2 VCO | 60mA | 60mA | 0mA | 8HP |
ADDAC System | ADDAC106 T-Noiseworks | 40mA | 40mA | 0mA | 8HP |
OXI Instruments | OXI Coral | 110mA | 10mA | 0mA | 14HP |
AI Synthesis | Stereo Matrix Mixer | 20mA | 20mA | 0mA | 18HP |
AI Synthesis | AI017 Low Pass Gate | 19mA | 17mA | 0mA | 8HP |
Weston Precision Audio | AD110 | 75mA | 35mA | 0mA | 16HP |
Weston Precision Audio | H1 Analog Harmonizer | 200mA | 85mA | 0mA | 18HP |
RYK Modular | Night Rider | 52mA | 9mA | 0mA | 16HP |
Meng Qi | DPLPG | 0A | 0A | 0A | 2HP |
モジュールをたくさんケース に詰め込むと、たいていの場合、ひとつの電源ユニットからすべてのモジュールに電力を供給することになります。その際には、電源ユニットが全モジュールの消費電流の合計を上回る電流を供給できるようにしておく必要があります。もちろん、電源ユニット自体も、どれだけの電流を安定して供給できるかを考慮して設計されており、その上限が「定格電流」として示されています。
例えばとある電源ユニットの定格電流が以下であったとします。
- +12V: 1000mA
- -12V: 1000mA
- +5V: 500mA
この場合、+12Vは最大1000mAまで、-12Vは最大1000mAまで、+5Vは500mAまで供給可能ですよという意味になります。
先に掲載した表の、前回見てきたモジュール群の商品電流の合計は以下でした。
- +12V: 576mA
- -12V: 276mA
- +5V: 0mA
とすれば、この例に挙げた電源ユニットは、これらモジュールを使用するのには十分そう。おそらくいくつかのモジュールを足したり交換したりしても問題無いだろうと判断できるわけです。
なお、このモジュール群の幅の合計値は108HPです。ただ、サイズ的に大きめなモジュールが多めに混ざっています。
具体的な電源ユニットの例
では、実際に販売されている電源ユニットやケースはどの程度の電流を供給できるのでしょうか。実際に販売されている各種製品の定格電流を調べてみました。以下がこれを表にまとめたものです。(2025年3月時点)
ケースに電源がついているタイプのものは、右端列にサイズも併記しました。
メーカー | 製品名 | +12V | -12V | +5V | サイズ |
---|---|---|---|---|---|
Behringer | CP1A | 1000mA | 1000mA | 500mA | - |
dotRed Audio Designs | POWERBASE-PD | 1000mA | 1000mA | なし | - |
Tiptop Audio | μZeus | 2000mA | 500mA | 170mA | - |
4ms | Pod26 Powered | 700mA | 280mA | 1000mA | 26HP |
4ms | Pod64X Powered | 1400mA | 670mA | 1000mA | 64HP |
Cre8 Audio | Nifty CASE | 1500mA | 500mA | 500mA | 84HP |
Arturia | RackBrute 6U | 1600mA | 1600mA | 900mA | 176HP |
ALM Busy | Eurorack Powered Case 9U/84HP | 2500mA | 2500mA | なし | 252HP |
Befaco | 7U Case | 5000mA | 2500mA | 4000mA | 3U:208HP / 1U:104HP |
Konstant Lab | HammerPWR | 5000mA | 2500mA | 2000mA | - |
Doepfer | A-100PSU3 | 2000mA | 1200mA | 2000mA | - |
これらは色々なバリエーションの電源やケースからTakazudoの方でピックアップしたものです。
種類的に以下のように分類し、それぞれの特徴を見ていきます。
- モジュール型
- ケース一体型: 小
- ケース一体型: 大
- 電源単体
この分類は私の方で考えたものですが、まぁ世間的にも大体こんなイメージだと思います。
1. モジュール型
まず1つめ、ユーロラックモジュラーシンセのモジュールとしてマウントできるタイプの電源ユニットをここではモジュール型として分類しました。この分類に該当するのは以下3つの製品。
メーカー | 製品名 | +12V | -12V | +5V |
---|---|---|---|---|
Behringer | CP1A | 1000mA | 1000mA | 500mA |
dotRed Audio Designs | POWERBASE-PD | 1000mA | 1000mA | なし |
Tiptop Audio | μZeus | 2000mA | 500mA | 170mA |



このタイプの電源ユニットの特徴としてはまず、価格が比較的低いことが挙げられるでしょう。このタイプの電源ユニットはいずれも、第2回で触れたフライングバスケーブル付きで販売されており、これ一つで電源はOKですよというタイプの製品です。
特に、後述する電源もついているタイプのケースだと価格が高くなりがちなので、電源が2万円以下で済むというのは嬉しいポイントです。なので、自分で何かケースを作ってみようとか、気に入ったケースがあるけど電源はついていないという場合、このタイプの電源は手軽に組み合わせられて便利に使うことが出来ます。
デメリットとしては、いずれも定格電流が低めであるという点です。CP1AとPOWERBASE-PDは+12V、-12Vともに1000mAまで。μZeusは+12Vが2000mA、-12Vが500mA、+5Vが170mAまでとなっています。
+12Vが1000mAというのは、Takazudo的には84HPぐらいのケースに収まるぐらいのモジュールをカバー出来るぐらいかなという感覚です。初めに挙げた、前回紹介したモジュール群の商品電力合計は+12V側が576mAでした。これをベースにして考えるとすれば、いくつか商品電流の高めなデジタルモジュールが混ざってきたり、幅の小さいモジュール(2HPとか3HPとか)でありながら、高めの消費電流を持つモジュールが混ざってきたりすると、1000mAぐらいになってしまうかもしれません。また、μZeusは+12Vが2000mAですが、-12Vが500mAしかない点には注意が必要そうに思います。(
ほか、デメリットと言うほどではありませんが、このタイプの電源ユニットは、ユーロラックモジュールとしてケースに備え付ける形となるため、ケースを4,5HPぐらい消費してしまうという特徴もあります。スイッチがそこにあって使いやすかったりもしますが、人によってはモジュールらと並んでいて欲しくないという意見を持っている人もいました。まぁたしかにモジュールに電源は並んでいない方がスッキリはします。
フライングバスケーブルは大容量の電流を伝達できないよと、第2回に書きましたが、このタイプの電源ユニットの場合、そもそも大容量の電流を供給できないので、問題にならなそうです。この3つの電源モジュールですと、μZeusは高めの定格電流ですが、フライングバスケーブルを繋げる箇所が2つ用意されています。これは、このフライングバスケーブルの伝達できる電流の量に配慮されていそうに思います。
そんなわけで、このタイプの電源ユニットは、84HP前後ぐらいであれば良い選択肢なのではとTakazudoは考えています。ただし、モジュールが 増えてきたら、定格電流をオーバーしてしまわないかに注意する必要があります。
ちなみにTakazudo自身はこの3つとも所持して使っています。使用していて特に大きな問題になったことは無いです。
2. ケース一体型: 小
次はケース一体型タイプの小。小型のケースに電源ユニットがくっついているタイプです。
メーカー | 製品名 | +12V | -12V | +5V | サイズ |
---|---|---|---|---|---|
4ms | Pod26 Powered | 700mA | 280mA | 1000mA | 26HP |
4ms | Pod64X Powered | 1400mA | 670mA | 1000mA | 64HP |
Cre8 Audio | Nifty CASE | 1500mA | 500mA | 500mA | 84HP |



このタイプの電源付きケースの特徴は、電源のことを何か深く考えなくても良い