
Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、Recovery Effects And DevicesのCutting Room Floor V3の紹介/解説記事になります。
Cutting Room Floor V3は、リール式テープ機材特有のサチュレーションとエコー感をユーロラックフォーマットで再現。アナログ的な揺れや歪みを細かく制御でき、ローファイな残響や空間処理が可能。フリーズスイッチやCV入力による制御も可能で、パフォーマンス性もしっかり持ち合わせた、6HPのコンパクトなエフェクターモジュール。
本商品は、以下よりご購入頂けます。
- 商品写真
- Cutting Room Floor V3の作る音
- テープの仕組み
- Tape Saturation(テープサチュレーション)
- Tape Delay(テープディレイ)
- テープのゆらぎ Wow(ワウ)
- Freeze(フリーズ)機能
- Cutting Room Floor V3の使いどころ
- 関連モジュール紹介: ADDAC112 VC Looper & Granular Processor
- 技術仕様
- 付属品
商品写真




Cutting Room Floor V3の作る音
このCutting Room Floor V3は、リール式テープ機材のシミュレーションを、エフェクター的に使えるようにしたモジュールでして、その機能を説明していきたいところですが…… その前にまずはこういう音になりますというのをご確認頂けるのが良いかと思います。
以下は、Recovery Effects And Devicesの公式YouTubeチャンネルにて公開されている、Cutting Room Floorのデモ動画です。
このデモ動画では、ピアノのメロディーが鳴っていますが、何か非常に古めかしい雰囲気に聞こえます。動画ではオリジナルのピアノのサウンドは確認出来ませんが、おそらく元になっているのは、一切揺らぎがない、ただ普通にピアノが弾かれているサウンドなはずです。そして別のシンセサウンドやドラムも混ざってきますが、全体的にSaturation(サチュレーション)がかかっている印象がするでしょう。
このCutting Room Floor V3を通すと、このようなSaturation、ピッチの揺らぎ、Delay(ディレイ)/Echo(エコー)効果を得ることが出来ます。IN
ジャックに原音のオーディオシグナルを入力、処理結果のオーディオシグナルがOUT
ジャックから出力されます。
テープの仕組み

このモジュールの元になっているテープの仕組みについて知らなかったとしても、なんとなく使えばちょっとノスタルジックで古めかしい音感が得られるとは思いますが、何をシミュレーションしているのかを知っておくと、よりこのモジュールをより理解して楽しみいただけるかと思います。そんなわけで、以降ではテープの録音/再生のしくみについてライトに解説してみます。
テープについて理解しようという時、ラジカセのカセットテープを思い浮かべると良いかもしれません。とはいえ、「昔カセットテープってあったよね!」とこれを書いている私Takazudoはこのペー ジ執筆時の現在42歳であり、若い方がこの文章を読んだところで、カセットテープ!?なんですかそれ……という感じかもとは想像していますが、まぁなんとなくイメージできるであろう前提で話を進めていきます。

カセットテープには2つのリールがあります。左側がこれから再生されるテープが巻かれているリールで、例えば15分ぶんの録音が過去になされたテープなんかがそこに収まっていると想像してください。右側は再生が終わったテープが巻き取られていくリールで、最初は空っぽです。カセットテーププレイヤーを再生すると、左右のリールが同じ速度で回転し、テープが左から右へと送り出されていきます。このとき、2つのリールの間──テープが通過する部分に再生ヘッドと呼ばれる、音を読み取るための部品があり、そこをテープが通ると、記録された音が再生される。これがカセットテープの基本的な仕組みです。
Cutting Room Floor V3がシミュレーションしているのは、カセットテープのご先祖とも言えるアナログオープンリールテープです。カセットテープは、テープがカセットの中に収められており、再生・録音ヘッドはプレイヤー本体に組み込まれています。一方、オープンリールテープは、テープとリールが別体で存在し、より幅広で長尺のテープを使うことで、音質的にも優れた記録が可能です。
※ これらイラストはAIに「本物っぽいやつ作って」と言って作ってもらったやつです
Tape Saturation(テープサチュレーション)
さて、ではそんなテープに音を録音すると、その音にはどのような変化が起こるのでしょうか?
まず最初のポイントとして、 原音はテープに録音することで少なからず劣化します。そしてその音質の劣化がSaturationと効果として表れる、というのが最初の重要なポイントです。
そもそもテープというものは、なんなのでしょうか。見た目的には黒や茶色いセロテープみたいなやつです。このテープというもの、ベースがプラスチックでできていて、その表面に磁性体(例えば酸化鉄や金属粉など)が塗布されています。録音の際、元の音は電気信号(電圧の変化)ですが、それを録音ヘッドと呼ばれる部品がが磁気に変換して、そこを通る磁性体の粒子を一定の向きに磁化することで記録します。S極とかN極とかそういう磁気の変化をテープに与えるのです。
再生時はその逆で、テープの磁気パターンを再生ヘッドが読み取り、それを再び電圧の変化へと変換し、スピーカーやヘッドフォンに送ることで音になります。
つまり、全体の流れで見れば、
電圧 → 磁気信号 → 電圧
という風に、2段階の変換がここでは発生しています。この録音と再生のプロセスの中で、どうしても元の音質に変化が加わってしまうのです。デジタルであれば音質は劣化せず、100%同じデータができます。例えばパソコンでMP3ファイルをコピーして同じファイルを複製するような場合です。しかしテープの録音は、例えて言えば、非常に技術の高い画家が誰かの絵を模写しているようなものです。かなりの精度で再現できたとしても、完全に同じものにはなりません。
テープサチュレーションとは、このようなテープという媒体への録音/再生によって生まれる音の質感変化のことを指します 。例えば、磁気記録では高周波の成分ほど記録が難しいため、高音域ほど録音・再生でロスが発生しやすくなります。また、入力される電圧が大きすぎると、磁性体の飽和(サチュレーション)が起きて、音が割れたような、でも完全に潰れるわけではない、独特の歪みになります。このとき、単純にピークが切り取られるわけではなく、テープという媒体特有の滑らかで丸みのある変化として現れるのが特徴で、これがTape Saturation(テープサチュレーション)と呼ばれる効果です。
こうしたテープの音質変化は、しばしば「暖かみがある音」などと表現されます。これは、デジタル録音でのクリッピング(ピーク超過でバサッと切られる)とは異なり、テープ固有の有機的な歪み方によるものです。絵の模写の例えでいえば、「オリジナルとは違うけれど、この模写のほうがなんだか好きだな」と思えるような、意図しないニュアンスの魅力がそこにある、という感じでしょうか。
されて、このCutting Room Floor V3の機能の話ですが、このモジュールはそんなTape Saturationをシミュレートしたエフェクターモジュールです。TAPE LEVEL
が、このテープサチュレーションの強さを調整するノブになっています。このノブを右に回すことで、原音にサチュレーションがかかっていくのをご確認頂けます。