Meng Qi: Honey紹介

2024/04/08 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、Meng Qi(孟奇)氏のHoneyというスタンドアロン型電子楽器の紹介です。

Honeyは、Bytebeatの考え方をベースとした、手のひらサイズのタッチ操作型ノイズミュージック生成電子楽器とでも呼べるかもしれません。単四電池一本で動き、オーディオジャックは無いため、スピーカーを通じて音を出力します。タッチ操作により変数や数学的演算を変化させ、動的なサウンドを生み出します。

こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。

Honeyの使い方

このHoneyは、一見するとジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のような形をした謎のデバイスですが、電池を入れて触ってみるとあら不思議、多様なノイズ、サイン波が混ざったようなサウンドが出力されます。

そのサウンドはタッチする6枚のパネルによって変化したりしなかったり、どうにも捉えどころのないように思われますが、触り続けていると、なんとなく雰囲気が掴めてくるような来ないような……。ひとまずHoneyはそのように、このHoney単体で動作する、タッチ操作型の電子楽器です。

Bytebeatとは

このHoneyを楽しむには、「Bytebeatの考え方をベースとした」と前述した、そのBetebeatというものが何なのかについての理解があると良いかもしれません。

筆者Takazudoは、Bytebeatという言葉はたまにX(Twitter)でたまに見かけていた程度で、何やら短いプログラムで音楽を鳴らす何か?ぐらいの認識でしたが、今回このHoneyを入荷するに当たり、多少それが何なのかを調べて理解するに至りました。そして、そのBytebeatが何かを知ることで、Honeyがどのような楽器であるのかということの理解が深まりました。

Bytebeatというのは、2011年にViznut氏が、自身が書いた短いプログラムのコードが、音楽的な出力を生み出すことに気づき、インターネットで公開したことがきっかけで始まりました。以下がそのコードと、それにより生成されるサウンドです。

このサウンドを作っているのは以下のようなごく短いC言語のプログラムです。

main(t){for(t=0;;t++)putchar(t*(((t>>12)|(t>>8))&(63&(t>>4))));}

この動画は多くの人の興味を引き、同様に短いコードでのサウンド生成を試みる小さなブームが起こりました。

このBytebeatは、手元にプログラムの実行環境がなければ動かせないというものではなく、以下のように、ブラウザ上でBytebeatを作るWebアプリケーションも登場し、誰でも手軽にBytebeatを楽しめることができるようになっています。

Viznut氏はこの現象を興味深く感じ、以下のブログと論文に、Bytebeatの広まりについてまとめています。

そして氏は、このBytebeatのような試みの広がりは、これまで探求されてきた表現空間では見つけることの出来ない、興味深い音楽に対するアプローチを発見できるようになる可能性があると語っています。

HoneyとBytebeat

で、このHoneyなんですが、Bytebeatの考え方をベースにしていると前述しました。HoneyはBytebeat同様、そのサウンド出力のもとになっているのは、演算の結果です。そしてその演算には、5つの変数、4つの算術演算子、6つのその他演算子があり、これらがタッチパネルの操作により変化するようになっています。これがこのタッチパネルの存在している意味です。

このHoneyが作り出すサウンドは、Meng Qi氏が作った回路により生成されるものであり、そのサウンドは、6つのパネルにより部分的に変更可能になっています。

つまり、このHoneyとは何なのかと言うと、そのタッチによる生成サウンドの変化の塩梅も含めた、Meng Qi氏の、Bytebeat的アプローチを取り入れた電子楽器作品であると言うことができるでしょう。

Bytebeatのススメ

筆者Takazudoが最初にBytebeatのビデオを見た時、正直なところを言うと、これを何にどう使えば良いのか、全く分かりませんでした。しかし、Bytebeatの考え方を知ると、このHoneyはそもそも、何か既存の音楽的なアプローチーーそれは例えば一定のテンポや、メロディ、リズム、コード進行などーーに倣い、何かを達成するために作られているというものではないという事を知りました。

そして実際にHoneyが送られてきて手に取ってみると、なんとも不思議で、そのとりとめのないランダムさの中に、触っているパネルによって、一定のルールがあるように感じられてきます。それが本当に制御可能なものなのか、そうでないのかはまだ分かりません。Bytebeatの背景を知ると、BytebeatやこのHoney自体が、既存の音楽的なアプローチに対する、何かアンチテーゼ的な存在にさえ思えてきます。

このHoneyの楽しみ方は様々かと思われます。このHoneyを手にとって、その不思議なノイズがどのように作られるのかを感じ取るだけでも良いでしょうし、このHoneyが作り出すサウンドを、サンプリングしたり加工したりし、自分の音楽の中の、ランダムを作り出す一要素としても面白いかもしれません。

筆者Takazudoとしては、このHoneyの存在自体が、そのように何か我々がコントロールできる範囲に無い要素ですら、音楽を作り出す楽器の一部として作り上げることは可能であり、身体の動きによりコントロールできうるものだというメッセージのようなものを感じます。そして、既存の音楽に縛られている人に対しては、音を作ることの自由さのようなものを想起させてくれる存在でもあるのではないでしょうか。

参考動画

以下は私の方でHoneyを鳴らしてみている動画です。こんな風にパネルを触ると音が出る楽器です。

技術仕様

  • 単4電池1本で動作(本商品には付属しません)
  • オーディオジャック非搭載、内蔵スピーカーより音が出力されます

Meng Qi(孟奇)氏について

Meng Qi(孟奇)氏は、中国在住のミュージシャン/シンセサイザーデザイナー/教師です。個人として各種の素晴らしい電子楽器を作成しています。

以下は本製品に同梱されているステッカーで、ここに書かれているメッセージは、楽器に興じることの素晴らしさを感覚的に感じている人には共感できるものではないでしょうか。

ステッカー写真

As a musical instrument designer, I'm expecting instruments could enable us to lead a life that is inviting, with characters of instruments corresponding to some certain parallels in our lives.

In this life can we indulge, where chaos are controlled as well as harmonies; some parts are continuous while some can be quantized; all the time we are surprised by daily wonder and also see results come to us as they're supposed to; science is respected as core, yet we talk through intuition.

This life being diversified, free, but never too obscure, we learn through practice though distinguish by expression. And that is good experiences to be entirely immersed in.

Meng Qi

音楽機材のデザイナーとして、私は機材が我々のLife(人生/生活)ををリードする存在になることを期待している。それは機材の個性が、我々のLifeの中の何かと共鳴し、自然と発生するかのように。

このLifeにおいて我々は興じよう。混沌がハーモニーのようにコントロールされ、一部はただ連続性があるだけであるかと思いきや一部やクオンタイズされ、いつだって我々は日常の中にある出来事に驚かされたり、起こるべきことが起こるのを体験したりする。そこには科学がコアとして尊重されるが、我々は直感を通じて会話をする。

このLifeは多様で自由であるが、決してとりとめのないものなどではなく、我々は繰り返し経験を積み、表現を通じて他と異なるものを見出していく。これは完全に没頭できる素晴らしい体験である。

Meng Qi

Takazudo訳