このシリーズでは、Weston Precision Audio のモジュールを紹介して参ります。
Weston Precision Audio は、アメリカ・オレゴン州ポートランドを拠点とするブティックメーカーです。設計者の Devin氏が一人で設計・製造を手がけており、アナログ回路設計の精度と品質へのこだわりが各モジュールに反映されています。温度補償VCA モジュールによる高い安定性、7 オクターブ以上の正確なトラッキング、スルーゼロ FMなど、大手メーカーにも引けを取らない本格的なスペックを、コンパクトなモジュールに凝縮しているのが特徴です。
日本ではまだあまり知名度が高くないメーカーですが、実際に使ってみると、アナログ回路の魅力を強く感じられるモジュールになっていることに気付かされます。このシリーズでは、Weston Precision Audio のモジュール群を公式デモ動画とマニュアルに基づいて日本語で解説していきます。モジュラーシンセの世界で新しい選択肢を探している方に、ぜひ知っていただきたいメーカーです。
EP.1 では、デュアルアナログオシレーター 2V2 を取り上げます。
Takazudo Modularではマニュアル等の日本語訳付きを作成し、公開しています。以下よりご参照下さい。
- 2V2 とは
- スペック概要
- 5 つの波形出力
- FM(周波数変調)
- Env In — FM 用内蔵 VCA
- シンク機能(VCO B → VCO A)
- クロスモジュレーション + シンク
- LFO モード
- パルス幅変調(PWM)
- CVB ジャック・ノーマル設定
- 実践的な使い方のヒント
2V2 とは
2V2 は、16HP に 2 基のアナログトライアングルコア VCO を搭載したデュアルオシレーターモジュールです。Weston Precision Audio の最初のモジュールだったデュアル VCO の後継にあたり、大幅に機能が強化されています。
各 VCO は完全に同一の構成で、三角波・正弦波・ノコギリ波・パルス波・サブオクターブ矩形波という 5種類の波形出力を備えています。さらに、エクスポネンシャル FM とスルーゼロリニア FM の両方に対応し、FMの深さをエンベロープ等でコントロールできる内蔵 VCA まで搭載しています。
スペック概要
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| サイズ | 16HP |
| VCO 構成 | トライアングルコア × 2 基 |
| 出力波形 | 三角波、正弦波、ノコギリ波、パルス波、サブオクターブ矩形波(各 VCO) |
| 入力 | V/Oct、FM、Env In(各 VCO) |
| FM タイプ | エクスポネンシャル / スルーゼロリニア(切替スイッチ) |
| 出力レベル | 約 10Vpp(各波形) |
| トラッキング | 7 オクターブ以上 |
| 電源消費 | +12V: 115mA(typ)/ -12V: 85mA(typ) |
| 特殊機能 | LFO モード、ソフト / ハードシンク(VCO B)、FM 用内蔵 VCA |
5 つの波形出力
各 VCO には 5 つの波形出力が用意されています。デモ動画では冒頭でこれらの波形を順番に紹介しています。
三角波(Triangle)
VCO コアから直接出力されるトライアングル波です。倍音が少なく、柔らかい音色が特徴です。
正弦波(Sine)
三角波をオーバードライブされたマッチドディファレンシャルペア回路に通すことで生成される近似正弦波です。最もピュアな音色で、FM のキャリアやモジュレーターとしても優秀です。
ノコギリ波(Sawtooth)
三角波と矩形波から変換されたノコギリ波です。すべての整数次倍音を含み、リードやベースに適したブライトな音色です。
パルス波(Pulse)
パルス幅を PW ポットで 0〜100%まで調整でき、中央位置が 50%(矩形波)になります。PWM入力にモジュレーション信号を送ることで、動きのある音色を作れます。
サブオクターブ矩形波(Sub-Octave Square / 1/2f)
他の波形出力の半分の周波数で出力される矩形波です。オクターブ下の厚みを加えたいときに便利です。
FM(周波数変調)
2V2 の大きな特徴のひとつが、各 VCO に搭載された FM 機能です。FM入力の隣にあるスイッチで、エクスポネンシャルとスルーゼロリニアの 2 種類を切り替えられます。
スルーゼロリニア FM(TZFM)
「スルーゼロリニア FM」と聞くと難しそうな名前ですが、ここで押さえてほしいポイントは一つだけです。深く変調をかけても、ピッチが妙に崩れないタイプの FM です。
何が違うのか、絵で見るのが一番早いです。同じキャリア(ノコギリ波)に同じモジュレーター(スローなサイン波)で、同じ深さの変調をかけた結果を 2 枚並べて比べてみます。違いは FM の種類だけ、赤くハイライトされた区間がモジュレーションが一番深く沈み込んでいるタイミングです。
普通のリニア FM では、その区間でキャリアが「止まって」しまいます。ノコギリ波の上下動がぴたっと固まって、平らな線になっているのが見えます。これが音色を不自然に詰まらせ、ピッチ感も狂わせる原因です。
TZFM だと、止まる代わりにキャリアが進行方向を反転させて走り続けます。ノコギリ波が下向きにスロープを反転させ、再び上向きに戻ってくる様子が見えるはずです。
この「止まらず裏返って走り続ける」性質のおかげで、TZFM では深く変調をかけてもキャリアのピッチ感が破綻しません。デモ動画でも、かなり深く TZFMをかけてもピッチがしっかり保たれている様子が確認できます。
仕組みをもう少し詳しく
もう少し原理的に補足すると、モジュレーション電圧(V_mod)と瞬時周波数(f)の関係は下のような直線になります。TZFM では変調を深くかけると周波数が 0Hzを通り抜けて負の領域まで届きますが、この「負の周波数」というのが、まさに上で見た波形が逆方向に走る現象の正体です。
紫色の帯はモジュレーターの振れ幅で、左端の青いマーカーがその範囲内における出力周波数の中点を示しています。TZFM ではこの中点がちょうど基本周波数 f₀(白丸)と一致するので、深く変調をかけても平均ピッチがずれない、というのが数学的な裏付けです。マニュアルのオシロスコープ画像でも、TZFM時にはキャリアの基本周波数がバランスよく維持される様子が示されています。
エクスポネンシャル FM
こちらは一般的な FM で、モジュレーション信号に対して指数的にピッチが変化します。TZFMよりもワイルドで予測しにくいサウンドが得られ、パーカッシブな効果やノイズ的な音色を作るのに向いています。
TZFM と同じ軸でエクスポネンシャル FMの伝達曲線を描くと、特徴がはっきりと見えます。曲線は 0Hzに漸近するだけで決してそれを下回らず、上方向にだけ大きく伸びていきます。この上下の非対称さが「ピッチが上方向にシフトしてしまう」現象の正体で、左端の橙色マーカー(モジュレーター ±1V の出力周波数の中点)が基本周波数 f₀ より明らかに上に位置していることからも読み取れます。
FM Amount ポット
FM 入力の隣にあるアッテネーターで、FM のかかり具合を調整します。外部からのモジュレーション信号の強さをここで微調整できます。ポットを 0% にすると変調量がゼロになり、TZFM/エクスポネンシャル どちらに切り替えていてもキャリアはそのまま出力されます。
Env In — FM 用内蔵 VCA
2V2 の特にユニークな機能が、各 VCO に搭載された Env In 入力です。ここにエンベロープなどのユニポーラ信号(0〜5V)を入力すると、FM の「かかり具合」自体をダイナミックにコントロールできます。
下図は Env Inの効果を可視化したものです。一番上のモジュレーター(一定振幅のサイン波)は、そのままだとずっと同じ深さで FMがかかり続けますが、中段の Env In に入力されたエンベロープ(アタック→ディケイ形状)が、FMの「かかる量」自体を時間軸に沿って制御します。結果として一番下のキャリア出力は、エンベロープが立ち上がる瞬間にFM が深くなり、リリースとともに FMが消えて元のキャリア波形に戻っていきます。これが外部 VCAなしで実現される、ダイナミックな FM サウンドの正体です。
つまり、キーを押した瞬間だけ FM が深くなり、リリースとともに FM が消えていくといった表現が、外部 VCAなしで可能になります。これは Weston Precision Audio の別モジュール TZO にも搭載されている機能で、FMを使ったサウンドデザインの幅が大きく広がります。
Devin氏もデモ動画の中で「1〜2 台の 2V2 があれば、アナログの世界で独自の FMアルゴリズムを作れる。しかもスペースを取らない」と語っています。デジタル FM シンセでおなじみのアルゴリズム的な構成を、完全アナログで実現できるのは魅力的です。
シンク機能(VCO B → VCO A)
2V2 の右側の VCO(VCO B)には、左側の VCO(VCO A)にシンクする機能があります。3ポジションのスイッチで操作します。
ソフトシンク
スイッチを上にすると、VCO A の正のゼロクロッシングごとに VCO B の三角波が反転します。VCO Bのピッチを変えると、倍音構造が変化する独特のサウンドが得られます。デモ動画では青い波形(VCO B)が反転している様子がオシロスコープで確認できます。
下図の上段は VCO A(マスター)のサイン波で、その正のゼロクロッシングを黄色い縦線で示しています。中段は VCO B が同期されていない状態の三角波で、下段がソフトシンクをかけた VCO B です。トリガーごとに三角波の極性が反転し、そこから新しい方向で進み続けているのが見て取れます。
ハードシンク
スイッチを下にすると、VCO A の正のゼロクロッシングごとに VCO Bのコンデンサーがゼロにリセットされます。より攻撃的で鋭いシンクサウンドが特徴で、クラシックなシンクリードに最適です。
同じく上段が VCO A、中段が VCO Bの自由走行、下段がハードシンク時の VCO B です。ソフトシンクと違って、トリガーごとに VCO Bの位相が完全にゼロへ戻され、ノコギリ波が途中で「切れて」最初からやり直しているのが分かります。これがハードシンクのアグレッシブで鋭いサウンドの源になっています。
クロスモジュレーション + シンク
2 本目のデモ動画では、TZFM とシンクを組み合わせた、より発展的な使い方が紹介されています。
通常の TZFM(シンクなし)
左側の VCO(VCO A)で右側(VCO B)を FM する基本的な構成です。モジュレーター(VCO A)のピッチを変えても、キャリア(VCO B)の基本ピッチがしっかり維持されているのが聴き取れます。かなり高い周波数まで安定した TZFMパフォーマンスを発揮しています。
ソフトシンク + TZFM
シンクを追加すると、TZFM のキャラクターが変化します。モジュレーターのピッチ変化がより全体のピッチに影響するようになり、キャリアのピッチを変えると FM のキャラクター自体が変わります。オシロスコープ上で波形が反転するインフレクションポイントが見え、ソフトシンクの効果がわかります。
ハードシンク + TZFM
ハードシンクを加えると、さらにアグレッシブなサウンドになります。反転ではなくリセットが行われるため、より鋭いエッジの音色が得られます。
逆方向のクロスモジュレーション
デモ動画の後半(2:57〜)では、VCO B から VCO A へモジュレーションを送りつつ、VCO A の周波数で VCO Bをシンクさせるという、逆方向のパッチングも紹介されています。これはフィードバック的なループを生み出し、かなりカオティックなサウンドが得られます。
LFO モード
各 VCO は、ボタンひとつで LFO モードに切り替えられます。LFO モードでは通常の約 0.015倍の周波数で動作し、低周波のモジュレーション信号源として使えます。
デモ動画でも、ボタンを押すとアンバーの LEDが点灯して、オーディオレートからモジュレーションレートに切り替わる様子が確認できます。デュアル構成なので、2 基の LFOとして使うこともできます。
パルス幅変調(PWM)
各 VCO のパルス出力には PW ポットが付いており、パルス幅を 0〜100%の範囲で調整できます。中央位置が50%で矩形波になります。
PWM 入力にアッテネーターはないので、外部でレベルを調整する必要があります。LFOやエンベロープをパッチして、時間的に変化するパルス幅を作ると、コーラスのような厚みのある音色が得られます。
下図の上段が PW = 50%(矩形波)の状態、中段が PWMの制御信号(LFOサイン波)、下段が PWM をかけたパルス出力です。PWM入力の電圧に追従して、各サイクルのデューティ比(上に居る時間と下に居る時間の割合)が時間的に変化していくのが分かります。
CVB ジャック・ノーマル設定
2V2 のジャック PCB の裏面には、VCO B の V/Octジャックのノーマリング(何も接続していないときの動作)を選ぶソルダージャンパーがあります。
- 0V(デフォルト): VCO B の V/Oct に何も接続しないと 0V が入力される。VCO B はフリーランニングになる
- CVA: VCO B の V/Oct に何も接続しないと、VCO A の V/Oct 信号が VCO B にも送られる。1 本のピッチ CV で両方の VCO をコントロールしたい場合に便利
Devin氏はデモ動画でデフォルトの 0V 設定を使っているため、VCO B の V/Oct ケーブルを抜くとフリーランニングになっている様子が確認できます。
実践的な使い方のヒント
デュアル VCO としての基本パッチ
最もシンプルな使い方は、両方の VCO に同じ V/Oct を送り(CVA ノーマリング設定にするか、マルチプルで分岐)、片方を少しデチューンしてミックスする方法です。アナログオシレーター特有の豊かなサウンドの基本形です。
アナログ FM シンセサイザー
Env In を活用すれば、外部 VCAなしでダイナミックな FM サウンドが作れます。エンベロープをキーボードゲートに同期させれば、ノートオン時に FMが深くかかり、リリースとともに消えていくという、DX7 的な振る舞いをアナログで再現できます。
モジュレーションソースとして
LFO モードを使えば、2 基の電圧制御 LFO として機能します。V/Oct 入力で LFOのスピードを外部からコントロールすることもでき、シンプルなモジュレーションソースとしても優秀です。
シンク + FM の組み合わせ
ハードシンクまたはソフトシンクと TZFMを同時に使うことで、片方の VCO だけでは作れない複雑な倍音構造を生み出せます。2本目のデモ動画で紹介されているクロスモジュレーション的なパッチングは、かなりユニークなサウンドが得られるので、ぜひ試してみてください。
EP.1 はここまで。次の EP.2 では、アナログとデジタルのハイブリッドオシレーター HV1 を取り上げます。ウェーブテーブルやフェイズモジュレーションなど、2V2 とはまた異なるアプローチのサウンドメイキングを解説していきます。









