RYK Modular: Vector Wave紹介

2024/01/27 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、RYK ModularのVector Waveの紹介/解説記事になります。Vector Waveは、FM Synthesis(FMシンセシス)とVector Synthesis(ベクトルシンセシス)をベースにしつつ、Envelope/LFO/VCA、その他多様な変調/Wave folding等が詰め込まれた上に、16個のオシレーターを持つという、デジタルらしいリッチさが光るオシレーターモジュールです。

なお、こちらの商品は、Takazudo Modularが国内のビルダーさんと協力し、DIYで作成したモジュールです。ビルド後、一通りの機能のチェックを行い、パスしたものを出品しています。また、このモジュールのメーカーであるRYK Modularにも許可を得て販売しているものです。

この商品には別売りのエキスパンダー、Vector Wave Expanderがあり、こちらも併せてTakazudo Modularで取扱っています。こちらについても併せてします。(エキスパンダーはDIY品ではありません)

こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。

Vector Waveとはどういうモジュールか

このモジュールはまずデジタルのオシレーターなのですが、これが何をしてくれるのかを理解するのはそこそこ難しいです。なぜなら、このモジュールは一口にオシレーターと言っても、色々な要素が詰め込まれているメガ盛りモジュールみたいになっているためです。

まず、gate入力に応じてVolumeをコントロールするADSR Envelopeが内蔵されており、外部のVCAとEnvelopeは特に用意する必要はありません。そして、AMモジューレーションFMモジュレーションWave FoldingWaveform Warp(SineからSaw、Pulseへ波形を変化させる機能)などなど、多彩な音色変化の実装が用意されています。

さらに、内蔵のLFOやVolume用以外のEnvelopeも持ち合わせており、各種パラメーターに対してこれらをルーティングさせることが可能。そして、4つのCV入力ジャック(M1M4)のCV/gate入力も、大体のパラメーターにルーティング可能です。よって、これとシーケンサーだけあれば、かなりのことができるというモジュールになっています。

そして、このモジュールのコアには、16個のオシレーターがあります。16のオシレーターと言っても、内部的には4つのオシレーターを一つのグループとし、これが4セットあるイメージです。これを多様に組み合わせることができるのがこのモジュールなわけですが、文章で一気に説明するだけではもう既にお腹いっぱいという感じかと思われるので、このモジュールの理解を進めるに際し、まずはこのあたりの話から見ていくことにします。

4オシレーター ✕ 4バンク

ひとまずは全体のイメージから。以下がVector Waveのざっくりとした構成図です。

Vector Waveの構成図

この図の上側では、ABCD4つのバンクがあり、それぞれが内部に4つのオシレーターを持っていることを示しています。そして右側に行くとこれが一つに合わさり、VECTOR MIXを経由してOUTへと繋がっていることを確認できます。

このように、4オシレーターのまとまりが4バンク分あるというのが、このモジュールを理解する上でまず大きなポイントです。

Vector Synthesis

前述のVECTOR MIXという部分は、4つのバンクの混ざり具合を調整する部分です。その混ざり具合をどの様にコントロールするかと言うと、基本的には、以下にあるJoystickを動かすことで、バンクの混ざり具合をコントロールすることになります。

図:joystickの位置

図:joystickの写真

Joystickの上下左右にはABCDの文字が書かれていますが、これはそれぞれのバンクを示しています。このJoystickはクルクルと回して操作することができるようになっているのですが、その様に指でJoystickを動かすと、Joystickの指し示している位置が決定されます(内部的にはX座標とY座標で位置をを評価します)。そのJoystickの示す方向(ベクトル)に応じ、ABCDの4バンクぞれぞれの出力がmixされた結果が、OUTより出力されるという作りになっています。

このようにJoystickのようなインターフェースを介して作られるベクトル(方向)情報から得られる情報を元に、波形の合成処理を行う手法を、Vector Synthesisと言い、Korg Wavestationや、YamahaのSYシリーズ等、1990年代に人気を博したシンセサイザーに実装されていました。

まずはこのVector Synthesisにより、4バンクの割合を切り替えながら音色を作れるというのが、このモジュールのシンセサイズ方法のコアとなっています。

FM Synthesis +

次にこの4つのオシレーターで1つのバンクを構成しているという部分ですが、この部分にはFM Synthesisが採用されています。FM Synthesisとは、オシレーター同士をモジュレーションさせあうことで多彩な音色を作り出す実装で、FM Synthesisを取り入れて大ヒットしたシンセサイザーとしては、Yamaha DX7が有名です。

バンク内のオシレーター構成を変更する時、Vector Waveのディスプレイには、以下のように4つの四角が並び、これが4つのオシレーターを示します。

そして、ディスプレイ直下のノブはそれぞれのオシレーターに対応しており、押す度に四角を結ぶ線が変化します。これはそのオシレーターと、他のオシレーターへのモジューレーション関係を変更します。

以下は、ディスプレイでの表示例と、それぞれに対するオシレーター間のモジュレーションの流れを示した図です。

モジュレーション関係の図1

モジュレーション関係の図2

モジュレーション関係の図3

それぞれのオシレーターは、個別にFrequency、Fine Tuning、Levelを変更できるようになっており、さらにこのオシレーター間のモジュレーション量(XM:クロスモジュレーション)を手軽にコントロールできる仕組みになっています。

また、オシレーター同士のモジュレーション関係を一切無しにし、4ポリのオシレーターとして使ったり、4つのオシレーターのピッチ関係としてコードを指定したりなどもできるようになっています。

つまるところ、この1つのバンク内でFM Synthesisだけにとどまらない、豊かな音色を作り出すことができるようになっています。

6つのSlotによる柔軟なルーティング

このように、4オシレーターのFM合成が4セット分という、合計16個のオシレーターによる豊かなシンセサイズ部分をコアとしていますが、外部のCVにより様々なパラメーターをコントロールしたくなるのがモジュラーシンセというものです。これをコントロールするためのジャックは、パネル下部にM1M2M3M4の4つ用意されています。

写真:M1〜M4のジャック

こんなにも色々と可変させるパラメーターがあると、いじりたいパラメーターがこの4つだけのジャックではうまいことコントロールできないのだろうなと思いきや、この仕組みもかなり柔軟です。それを可能にしているのがSlotという概念で、Vector Waveには、6つのSlotが用意されています。

それぞれのSlotは、モジュレーション元モジューレション先を設定できるようになっており、このモジューレション元には、M1M4の4つのジャックで受けるCVや内蔵のLFO、Envelope、Joystickの位置等が指定可能です。そしてモジュレーション先にも、EnvelopeのADSRそれぞれだったり、前項で挙げたフィルターやらWave Folderの適用量などなど、大体のパラメーターが指定可能です。

なので感覚としては、自分でコントロールしたいパラメーターに対して、CV入力やLFOを好きなようにルーティングできるので、自分の欲しいシンセサイザーをこのモジュールの中に作れるような感覚です。

MIDIによる制御

このVector Waveには1V/Octとgate入力のジャックがあります。それぞれのバンクは4オシレーター構成ですが、入力ジャック数の都合上、1系統のピッチコントロールで同時コントロールするしかありません。ここでMIDIを使うと、更に柔軟にVector Waveをコントロールできるようになります。

Vector WaveのモードをMULT(マルチティンバー)にすると、4つのオシレーターを個別にコントロールするモードに切り替わります。この場合、デフォルトだとCh1のNote Onは1つ目のオシレーターを、Ch2のNote Onは2つ目のオシレーターを……と言う具合に、Channelごとに別のオシレーターをコントロールできるように設定されます。また、どのモードであろうと、Slotのモジュレーション元として、好きなMIDIのCCを選択することもできます。

MIDIの入力は、パネル下部にあるMIDIジャックより、TRSケーブルにて受け取ります。

写真:MIDIジャック

Takazudo Modularで扱っているOXI ONEのようなスタンドアロンのMIDIを出せるシーケンサーとの相性もばっちりです。

そんなわけで、前項で書いたとM1M4のジャックから受けるCV入力を用いたアナログな制御も可能でありながら、MIDIによるコントロールも可能という、いいとこ取りの構成になっています。

なお、Vector Wave Exapnderを併せて使うと、Vector Waveに1V/Octとgate入力をそれぞれ3つずつ増やすことが可能です。このエキスパンダーを使用した場合、このマルチティンバーモードによる4ポリ別々のピッチコントロールを、MIDIを使わずとも可能になります。Takazudo Mdoularで扱っている以下のクオンタインザーなどと併せて使うと、シーケンスの柔軟さをさらに高めることができます。

Vector Waveの使い所

その他、細かい機能は色々とありますが、以上がVector Waveの機能のざっくりとした概要になります。このVector Waveは、デジタルモジュールの利点を活かし、かなりリッチな構成になっているにも関わらず、Slotという仕組みの存在により、他のアナログなモジュールとも違和感なく連携できる柔軟さが魅力的であるように感じます。

多くのデジタルオシレーターモジュールは、このVector Waveのように多数のパラメーターを変更できる様になっていた場合、予め割り当てられたMIDI CCを用いてコントロールできるように設計されていることが多いかと思われます。例えば、40のパラメーターをコントロールできるようになっていたとしたら、MIDI CCの1〜40を使うという具合です。

それはそれで柔軟なコントロールが可能ではあるのですが、そのような場合、他のモジュラーシンセと組み合わせるには、CVをMIDI CCに変えたり、PCやiPadでMIDIコントローラーを細かに設定し、モジュールと密に連携するようなシステムを組むことが必要になりがちです。そして、そのようなモジュールはなんだか直感的じゃないなと思って、深く使う前に売ってしまうようなこと、よくあるかと思います……。

Vector Waveはこのような設計ではなく、パラメーターをいじりたかったら、Slotでモジュレーション元としてCCを割り当てるという設計になっています。RYK ModularのWebサイトを見る限り、これはシンプルな設計を意識してこの様に実装されている模様です。このように、MIDIをしっかり使えるようになっていつつも、モジュラーシステムになじみやすいように設計されているという点が、このモジュール魅力として大きいように感じられます。

ほか、Joystickを使った4バンクの切り替えも、深掘りしがいのある機能です。このJoystickを使い、音色のトランジションをうまく利用するのも楽しそうですが、単純に4バンクの音色を用意しておき、それが手軽に切り替えられるというだけでもかなり便利に使えそうです。

例えばライブパフォーマンスのような状況を想定するとすれば、あらかじめ4つのバンクに自分の使いたいプリセットを用意しておき、演奏の流れに合わせてこれを柔軟にMixして切り替えていくことが可能となるでしょう。これは、単純に多数のプリセットを用意して切り替えるよりも遥かに柔軟な演奏体験を生み出せそうな期待を感じさせます。

一つ認識しておいたほうが良さそうなのは、これが16個ものオシレーターを使う上に、それ以外にもLFOやらEnvelopeやらも内蔵しているというかなりリッチな構成であるがゆえに、理解にエネルギーを要する複雑なモジュールであるという点です。そもそも、FM Synthesisという音の作り方自体が、結構思うようにコントロールするのが難しめです。これはマニュアルにも書いてあったことですが、ちょっとずつ緩やかなモジュレーションをかけていくところから初め、このモジュールにだんだんと習熟していくという付き合い方が良さそうに思われました。

参考動画

以下はRYK Modular公式のVector Wave紹介動画です。多様な機能を網羅的に紹介しているので、是非ご参照下さい。

以下は私の方でVector Waveを鳴らしているセッションです。鳴っているのはVector Waveのみで、エキスパンダーを使って1V/OctとGateをコントロールしています。

その他

  • 2024年1月に作成、インストールされているファームウェアのバージョンはV1.25です。
  • CLK/MIDIジャックで受け取るMIDIは、Type A/B両方に対応しています。背面のMIDIスイッチでこの2つを切替可能です。

技術仕様

  • Vector Wave
    • 幅: 17Hp
    • 深さ: 25mm
    • 消費電力: 60mA +12V/15mA -12V/0mA 5V
  • Expander
    • 幅: 3Hp
    • 深さ: 25mm
    • 消費電力: 1mA +12V/1mA -12V/0mA 5V

付属品

  • Vector Wave
    • 電源用フラットケーブル
    • ネジ
    • マニュアル(英語)
  • Expander
    • 本体との接続用フラットケーブル
    • ネジ

マニュアル

以下公式サイトにてマニュアルが公開されています。

Vector Wave Expanderの接続方法

Vector Wave Expanderの接続方法を詳解します。こちらは、見てもらったほうが早いので以下動画を用意しました。

このモジュールは、まず初めにキャリブレーションを行う必要があります。手順としては以下です。

  1. Vector Wave本体裏にある12ピンEXPNADERヘッダと、Vector Wave Expanderを、付属のフラットケーブルで接続する(下記写真参照)
  2. 裏のスイッチを0Vに設定する(初めに0Vのキャリブレーションを行うため)
  3. Vector Wave本体において、左端のグレーボタンと、右端のENV/LFOボタンを押しながら電源をON
  4. EXP CALと表示されることを確認。これはキャリブレーションモードで起動されていることを示しています
  5. 右下のノブを一度押し、キャリブレーションを開始
  6. 0Vと表示され、何度か表示が切り替わります。この時は何もしません。
  7. 5Vと表示されたら、すぐにExpander裏のスイッチを5Vに切り替えます。この切り替えには数秒しか猶予がないので、注意が必要です。(失敗したら電源を切り、初めからやり直してください)
  8. 表示が何度か切り替わり、DONEと表示されたらキャリブレーションの処理は完了
  9. 裏のスイッチを0Vに設定し、電源を切ります

注意点としては、電源をつけたままモジュールの裏をいじるので、静電気に注意し、また、ネジやパッチケーブルの先端等、周囲にある金属がモジュールの背面にある部品に触れないように細心の注意を払ってください。最悪ショートしてモジュールが壊れてしまう可能性があります。

以上でキャリブレーションは完了。一度行えば以降はキャリブレーションは不要です。

Vector WaveでMULTモードを選択すると、2〜4オシレーターのピッチとGateを、Expanderの入力ジャックによりコントロールできるようになります。

製品の保証について

こちらの商品はメーカーよりDIYのキットを購入し、Takazudo Modularで組み立てたものであり、メーカーの保証はありません。購入後1ヶ月以内の初期不良のみ、当店にて対応させていただきます。ですが、こちらで作ったものなので、不具合への対応はある程度予測が付く可能性があるため、何か問題を見つけた場合は、ひとまずご相談ください。

RYK Modularについて

RYK Modularは、2009年に設立された、イギリスに拠点を置くブランドです。

デジタル技術を生かしつつ、操作感が複雑になりすぎないように配慮されたモジュールのラインナップは、MIDIが使われるモジュールが多く見受けられるようになってきた昨今、今後のリリースにも注目が集まるメーカーです。

電氣美術研究會

オマケ: 電氣美術研究會モジュラー小物セット付き

電氣美術研究會

モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。

パッチケーブルや電源ケーブル、ドレスナットのサンプルセット、モノラルスプリッターなど、内容は時期に応じて変化します。商品に同梱しますので是非お試し下さい!

Vector Waveの紹介は以上になります。

デジタルの利点を存分に活かしつつも、柔軟なCVコントロールも可能。見た目もクールなモジュールです。インターフェースの操作性もかなりよく考えられており、FMシンセをさらに掘り下げたい方に特にオススメなオシレーターです。

ご参考になれば幸いです。