コラム001: シンセDIYとDIYキット

2024/08/03 Author: Takazudo

どうもTakazudoです。色々と商品をポツポツ増やしてきているのですが、商品の性質上、まとまった説明やら、そもそもモジュラーシンセってどういうものよみたいな説明がテキストで必要になってきたなと思いまして、そういったテキストを本Webサイトでは「コラム」として書いていこうかと思いました。

ということでコラム第1回。本日はシンセDIYとDIYキットについてです。

シンセのDIYってどういうこと? 自分で作れたりとか全然できる気がしないんですけど〜〜という方向けに書いてます。

私とシンセDIY

まずは私自身とシンセDIY(以降DIY)について少し書いておきます。

とりあえずこのWebショップを作ったのは2023年9月とかそのあたりだったんですが、その頃は自分はほはんだ付けとかそういう、電子部品をどうこうしたことは全くなかったんですよ。ただ、モジュラーシンセを触り始めると、そういうのを自分で作っている人たちもいるのが観測されるなぁというぐらいの認識で、おそらくモジュラーシンセを買って楽しんでいる人の中の多くも、だいたいそういう認識の方の割合が多いだろうという感覚です。

そんな風にシンセを売り出してみた後、うちのショップに興味を持った@regenb0gen303discordで会話をしていたら、DIYをやってみたいという話になりまして、よしんじゃ一緒にやってみるか。作って売れるか?という流れになり、とりあえずあれこれ作ってみるという流れになりました。彼は今も当店でDIY品として販売しているものの多くを作ってくれています。それがだいたい2023年11月ぐらいなので、この記事を書いている今は2024年8月であるため、自分のDIY歴はおおよそ半年ちょいぐらいです。

そこから色々と作ってきているのですが、自分にとってDIYを始めたことは、色々な意味があったことだと感じています。DIYを通じて色々な人に出会ったり、シンセの仕組みを部品単位で理解するに至ったり。何というのでしょうか、例えば当店や楽器屋で売っているこのようなシンセ等をみても、DIYを始める以前は「完成された電子楽器」という認識が普通だと思うんですよ。でもDIYを始めると、その解像度が高くなる感じがします。どういう特徴を持っているのか、デジタルなのかアナログなのか、どうしてこういう値段なのかなどなど、感じられるようになると思いますね。たぶん、自分でDIYしてみる人から見た電子楽器と、そうでない人にとっての電子楽器は、結構認識が異なっていると思います。

その後はオープンソースになっているモジュールのBOM(部品リスト)を見て一つずつパーツを自分で買ったりなどしたり、回路の勉強をたまにですがポツポツしたりしています。

DIYのススメ

そんなDIYなんですが、当店ではDIYに必要な部品がまとまっているDIYキットを多数取り扱っています。初めに道具を揃える必要はありますが、一度道具を揃えてしまえば、そういったDIYキットを買ってきて、部品をはんだ付けしていくだけで、自分でシンセを組み立てることができるようになります。私Takazudoとしては、このシンセDIYを是非勧めたい。そう思ってDIYキットを取り扱っています。

1. シンセに対する理解と愛着

DIYを勧めたい理由としては、前項でも少し書きましたが、まずはシンセに対する理解と愛着が深まるという点が挙げられます。例えば39,800円のモジュールがありまして、ちょっと興味あるなーと思って買い、そしてちょっといじって、たいして理解しないままに売ってしまうみたいなことってよくありませんか?

自分も割とそういう感じでシンセを売り買いしてたんですが、DIY始めてから割とそういう頻度が減りました。これがなぜか自分でもよく分かってないのですが、たぶん自分の手でシンセをDIYすると、全部自分の手で回路を繋ぎ、時にそれが動かなかったりもすることがあったりで自然とその一つ一つの機能を理解する結果をもたらします。そうなると、それはよく知っている道具という感じになって、手元に置いておきたくなる感覚があります。そう、39,800円の商品じゃなくて、自分で作ったモノという感じなのです。

これが誰にでも当てはまるとは思いませんが、そうやって自分で手を動かして作るということは、シンセに対する理解と愛着を生むとTakazudoは考えています。

2. DIYすること自体が楽しい

もうひとつが、DIYすること自体がこれはまたモジュラーシンセを演奏する、それを使って曲を作るみたいな、音楽的なこととは別の種類の趣味であると言えるかとTakazudoは考えています。この趣味が結構楽しいなと。

自分はDIYを始める前、このDIYは商品を作る工程であるとしか考えていませんでした。ショップとして売ることも考えていたので、材料がいくらで利益としてはどのくらいになるかなとか考えていて、そういう視点がメインだったんですが、実際にやってみると、このDIYすること自体が楽しいなと気付かされました。

モジュラーシンセを演奏することって、それ自体が瞑想するのに近い感覚があって、没頭できる感覚を自分は得ているのですが、そのシンセをDIYすること自体も、作ることに集中して没頭する感覚があります。Takazudoの本業はWebアプリとかの開発なんですが、Webアプリを作ることには目的があるが、それをプログラミングしている工程自体が楽しいという感覚に近いです。やればはんだ付けも上達していきますし、はじめはミスしたり、完成しなかったりすることもありますが、そういうのはやっていけばだんだんと減っていきます。

このあたりも人によるところが大きいかと思いますが、私は横でアニメやら動画やらを流しながら延々とはんだ付けをしていることがあり、そういうのもなかなか楽しいところですね。

3. 安価にモジュールを手に入れられる

もう一つは、安価にモジュールが手に入れられるというところが挙げられるでしょう。例えば以下、AI SynsthesisのStereo Matrix Mixerですが、これは完成品47,800円に対し、DIYキットは22,800円で販売しています。(2024年8月現在)

この価格は、当店としてはメーカーからの卸値を元に設定しているのであって、別に私が個人的に勧めたいから安くしているわけではありません。元々の値段としてDIYキットなら半分程度なわけです。そして、内容としては組み立てられているかいないかというだけの差なので、自分で作れればお得です。

このモジュールは自分でも組み立てて見ましたが、部品の数がかなり多く、慣れていても2〜3時間ぐらいはかかると見込んでおくのが適切かと私の方では感じました。メーカー側としては、これを10台売ろうと思ったら、20時間ぐらいかかるわけですから、この価格の差額はこの作業時間といえますね。

DIYキットをまとめるのもやや手間であるということもあろうことから、すべてのDIYキットが完成品に対してそんなに安価というわけではありませんが、大体手間がかかるモジュールであるほど、DIYキットと完成品の価格差は大きいという傾向があります。

ただし、完成品の場合は動かなければ当店に返品を求めることが可能ですが、DIYキットの場合は組み立ててもうまくいかなかったり、変に回路をつなげてしまってショートさせてしまった場合、自己責任となります。キットと完成品の差額にはそのような点も含まれていますが、そんなわけで自分でチャレンジしてみようかなと思う方にはDIYキットで作ってみるのは価格的にもオススメです。

DIYキットって何なの?

そんなわけで、自分でDIYすると色々良いよという話なのですが、この当店でも取り扱っているDIYキットというものは何なのか?ということについて、もうちょっと突っ込んで紹介しておきましょう。

モジュラーシンセのDIYキットというのは、そのモジュールを完成させるのに必要な部品をまとめたパッケージで、基本的にはそのキットとはんだごて等の道具があれば、ご自身で作ってみることができますよというセット商品です。

DIYキットの中身

DIYキットには、具体的に以下のようなパーツが含まれています。

  • フロントパネル
  • プリント基盤(PCB: 部品の番号等が印刷された基盤)
  • ラック固定用ネジ
  • 電源用フラットケーブル
  • ノブ
  • ポテンショメーター(ツマミ)
  • 細かい電子部品(抵抗、コンデンサ、IC等)

以下は私が前述のStereo Matrix Mixerを作っている様子を動画に撮ったものですが、はじめに開封しているので、これらが含まれていることをご確認いただけます。

DIYキットの組み立て方

このように部品が一通りセットになっているのがDIYキットですが、大抵の場合、メーカーはこのDIYキットに対して組み立て方のガイドを用意しています。例えば前述のStereo Matrix Mixerの組み立てガイドは以下で閲覧可能。これをみると、ステップバイステップで部品をつける位置を案内してくれています。

AI Synthesisの場合は取り立ててDIYを推してるメーカーなので、ビルドをしている動画を以下のように用意してくれています。

このほか、このStereo Matrix Mixerの場合はありませんでしたが、よくDIYキットを使って組み立ててみた動画をYouTubeにアップしてくれている方がいるので、そのような動画を参考にしつつ、ひとつずつはんだ付けしていきます。

始めてこのようなことをやる時は不安になるかと思いますが、基本的にはこのような動画や写真を見つつ、真似ていくのが基本的な流れとなるでしょう。

DIYキットの注意点

なるほどそういうものなのか、やってみようかなとご興味を持った方。次回どういう道具が必要かを紹介します。今回はその前に注意ポイントをいくつか。

間違えないことが最も効率的

このDIYキット組み立てなんですが、可能な限り間違えないように、一つずつ確認して作るというのを常に頭に入れながら作業することをオススメします。例えばこの部品はここにつけるのであっているのか? 方向はこれでいいのか? というようなことです。抵抗は向きは関係ないですが、ダイオードやLEDは向きを間違えると動きません。向きが関係する部品は、だいたいリード線の長さが違っていたり、方向を示す見た目になっています。そのような部品のつけ間違いを可能な限り起こさないようにすることが重要です。

なぜこのようなことをあえて書いているかというと、間違えて部品を取り付けた場合、そのことに気付くことがかなり難しいためです。はんだをつけ過ぎてしまった。上手につけられていないということがあっても、とりあえず大きな問題ではありません。ですが、間違った部品をつけてしまった場合はモジュールが動作せず、その原因を探るには回路の理解が必要になり、技術が必要です。その修正する作業についても、レゴブロックを組み立てるわけではなく、金属をくっつけた状態を剥がさないとなりませんので……。

完成写真とにらめっこ、もしくははんだ付けが甘そうな箇所を探し、はんだを付け直したりなどすることになるでしょう。このような作業は、ただ組み立てる時間よりずっと長くかかることがありますし、回路がショートした場合は最悪ICが壊れたり、抵抗が焼き切れて焦げたりします。そうなれば部品を買わねばなりませんし、どこが壊れたのかを判断するのも困難です。

また、基板にははんだ付けをするポイント(後述:ランド)がありますが、誤って付けた部品を取り外す際、このランドが取れてしまうことがあります。そうなれば基板を削ってランドの代わりとなる部分を用意したり、導線を別途用意して通電させなければなりません。そうなれば当然、回路を理解し無ければできないことは想像に難くないでしょう。

そんなわけで、一つ一つ確認しながら間違えないように組み立てることが、はじめは時間がかかるかもしれませんが、最も効率的な方法です!初めてDIYをする人は是非このことを覚えておいていただければと。

DIYキットは完璧であるとは限らない

もう一つ注意しておいていただきたいのは、この組み立て部品セットであるDIYキットは、完璧であると限らないということです。

これはどういうことかというと、DIYキットは時に、部品が足りていなかったり、プリント基盤の印刷が間違っていることがあります。え?売り物なのにそんな品質なの?と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は個人的にそのようなDIYキットに多数遭遇してきました……。

なぜそのようなことが起こってしまうかというと、ひとえにまずこのDIYキットという商品をメーカーは販売していますが、そんなに多くのお客さんがいるような商品でもないということが挙げられそうです。なので、ミスがあっても買った人が家にあるスペアの部品で済ますなどし、報告されること自体が稀のように感じます。

そしてこれは自分で部品を一つずつ買ってみると感覚的に理解できるのですが、部品の数も多く、また細かいため、パッケージングのミスということは起こりやすいと言えると思います。

また、「メーカー」とここまでで呼んでいますが、DIYキットを作って売っているようなメーカーは、ほぼ個人レベルで運営しています。RolandやYamahaのような大きな企業とは全く異なります。なので、大きな工場で一つずつ丁寧にチェックしたりしているわけではないですし、副業的にやっている方の割合もかなり多いと想像され、質問のメールを打っても全然返事が返ってこないようなこともあるといえばあります……。

そういう背景があることをTakazudoの方では把握していたので、そもそも当店でDIYキットを売ること自体にかなり慎重になっていたのですが、とりあえず、当店で販売しているものについては、そういうサポート体制が怪しいものは扱っておらず、そしてガイドや品質として信頼できるものを取り扱っているので、その辺りは安心してご購入いただければと思います。組み立て時に注意点がある場合は、それぞれの商品のページに記載しているので、当店の商品詳細ページを確認しつつ、組み立てていただければと思います。

組み立てや部品が足りない?この部品余った?などの質問についても、discordでサポートしているので、お気軽にご利用ください。

スルーホールとSMD

とは言っても難しいんでしょう……?と思われる方、誰でもできます!と言い切ることはできませんが、基本的にはそこまで難しいものではありません。と言いますのは、このDIYキットというもの自体、比較的大きめで、手ではんだ付けしやすい構成になっていることが多いためです。

DIYに使う部品としては、大きく分けてスルーホール(through-hole)とSMD(Surface-Mount Device: 表面実装デバイス)の2種類があります。スルーホール部品は、プリント基板に開けられた穴に部品のリード線を通し、基板に用意されたランドと呼ばれる金属部分にはんだ付けをして固定します。一方、SMD部品は基板の表面に直接はんだ付けされるため、小型化が可能です。

SMD部品を使って基板の実装を行うことをSMT(Surface-Mount Technology: 表面実装技術)と呼びます。ややこしいですが、大体SMDやらSMTやらは微妙にニュアンスが混ざった感じで使われていると思います。

以下の写真に写っているのはいずれもスルーホールの部品です。部品を取り付けるために、プリント基盤に開いていた穴と、部品がはんだで固定されています。

写真:スルーホール

これに対してSMD部品の取り付けは、プリント基盤上にパッドと呼ばれる小さな設置用に配置された金属の領域があり、そこに部品を置き、はんだをつけて固定するという形で組み立てます。SMD部品はスルーホール部品に比べて小さいため、難易度としては高めです。SMD部品の方は、今の時代、CADデータを作ると工場で機械が部品を指定した箇所に取り付けてくれたりするサービスが多く存在しており、比較的安価に、コンパクトなモジュールを大量生産できるようになっています。モジュールの裏を見て、こまかーーい部品が基盤の表面にいっぱいくっついていたら、それらはSMD部品であり、そのような部品を使った実装がSMTです。

以下の写真に写っているのはいずれもSMD部品です。これらの部品を取り付けるためには、基盤に穴は空いていません。

SMT

それでDIYキットの話に戻るのですが、DIYキットでは、細かいICや抵抗なんかは、すでにプリント基盤に付けられた状態になっていて、大きめの部品(ポテンショメーターやジャック)を自分で取り付けて完成させるというものも多く存在しています。

そもそもメーカーとしても、あまりにも難易度の高いDIYキットを作っても、個人が気軽に楽しむにはハードルが高すぎるし、サポートも困難になるため、作りやすいようにまとめられたものがDIYキットになっているパターンが多いと考えておいていただいてもらって良いかと思われます。当店で扱っている中で難しめなキットについては、その旨を商品詳細ページに記載しているので、ご参考にしていただければと思います。

DIYの道具について書こうと思って書き出したんですが、その手前で終わってしまいました。

次回はDIYに必要な道具についてご紹介します。


2024/08/07: 続き更新済み、第二回は以下です。