Weston Precision Audio: HV1 Hybrid Oscillator

作成: 2025/06/16 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、Weston Precision AudioのHV1 Hybrid Oscillatorの紹介/解説記事になります。

HV1 Hybrid Oscillatorは、アナログ三角波コアを基盤に、デジタルフェーズシフターウェーブテーブル機能を組み合わせたハイブリッド構造のVCO。スルーゼロFMや線形フェーズモジュレーション、ウェーブモーフィングなど多彩な機能を搭載し、高精度な音程追従と豊かな倍音生成を両立。16ビット/150kHzの高解像度デジタル処理と、CVによる柔軟な音色変化を活かした、次世代型のオシレーターモジュール。

本商品は以下よりご購入頂けます。

商品写真

HV1 Hybrid Oscillatorの特徴

HV1 Hybrid Oscillatorは、アナログとデジタルの利点を融合した構造により、クラシックなVCOの滑らかさと、デジタルならではの変調の多様性を一台で実現します。アナログの三角波コアを基盤とし、その出力をデジタルフェーズシフターに送ることで、安定した音程追従性と複雑な波形変化を両立。さらに、鋸波・パルス波・正弦波といった波形のアナログ出力も備えており、従来のVCOとしても十分な性能を発揮します。

フェーズシフターとデジタル波形処理

デジタルセクションは、三角波信号を元にしたフェーズシフトによって変調が行われ、線形フェーズモジュレーションやスルーゼロFMを可能とします。これにより、従来のアナログVCOでは得られないダイナミックな音響表現が可能になります。また、出力波形は16ビット/150kHzの高解像度で生成され、アンチエイリアシングも施されており、クリーンで高品位なサウンドが得られます。

ウェーブテーブル機能と外部データ対応

HV1は内蔵ウェーブテーブル波形を16種類持ち、これらをモーフィング可能です。さらに、microSDカードスロットを搭載し、WaveEditまたはSerumで作成したオリジナル波形を読み込むことができます。外部で作成した波形をそのままモジュールで再生できる柔軟性は、サウンドデザインにおいて非常に魅力的です。

多様なCV制御と変調

複数のCV入力を備えており、位相モジュレーション(PM)、周波数モジュレーション(FM)、ウェーブモーフィング、さらにはAUX入力によるウェーブフォールディングやビットクラッシングなど、ユニークな音響加工が可能です。これにより、シンプルな波形をベースにしながらも、非常に幅広い音作りに対応します。

操作性とインターフェース

フロントパネルにはオクターブ切替スイッチ(8段階)や、内蔵チューナーを搭載しており、ライブや制作環境でも扱いやすい設計。オシレーターのデチューン機能により、二つのオシレーターのような厚みのある音も作成できます。

運用例と応用性

  • リード音源としての利用: 高精度なピッチ安定性と豊かな倍音で、存在感のあるリードサウンドが作成可能。
  • FM/PM音源としての利用: デジタルセクションによる線形モジュレーションにより、複雑なFM音色や金属的な音色にも対応。
  • ウェーブテーブル音源としての利用: 独自波形の読み込みにより、ユニークなテクスチャーを付加可能。

HV1はどんなオシレーターなのか?

このHV1はまず、アナログオシレーターをベースとしており、それを色々なデジタル処理した結果を出力するというオシレーター。そこにウェーブテーブル機能が付いているというものです。うーんなんか色々出来そうな気がするけど、いまいちイメージがつかめないな……?と思う方向けにざっくり言うと、オシレーター関連のデジタル処理を色々詰め込んだモジュール、そしてウェーブテーブル機能が目玉。という感じでしょうか。

ここではこのウェーブテーブル機能と、フェーズシフトの機能について、簡単に解説していきます。

Wavetableシンセシス

モジュラーを始め、大体のシンセサイザーのオシレーターは、原始的な波形を元にし、それを加工したりモジュレーションさせたりして音を作るというアプローチで設計されているものが多いです。原始的な波形というのは、サイン波、三角波、矩形波、ノコギリ波みたいなやつですね。ですが、Wavetableシンセシスは、これらの原始的な波形を元にするのではなく、波形の集合体(ウェーブテーブル)を元に音を作るというアプローチを取ります。

例えば以下は左側がサイン波、右側が矩形波です。

この2つの中間状態を考えるとどうなるか?というと、以下のようになりそうです。完全に丸みを帯びている状態から、徐々に角張った状態になっていく……となるのが想像できるのでは無いでしょうか。

この中間状態を計算して、波形を生成するのがWavetableシンセシスです。Wavetableシンセシスでは、このような2つの波形だけで無く、もっと多くの波形の集合を元にこれを行います。

具体的に、このHV1に元から入っているウェーブテーブルを変化させてならした様子を見てみましょう。以下動画として用意しました。これを再生してみてください。

これは、WaveEditというウェーブテーブルの編集を行うソフトで、HV1のSDカードに入っていたデータを読み込んで鳴らしたものです。かなり色々なバリエーションの波形がこの中に含まれていることが分かるでしょう。

この動画で鳴らしている音は、HV1のWT Morphノブをゆっくりと回していけば、全く同じ音で再生されます。そしてこれはMorphジャックへのCV入力でもコントロール可能。

このウェーブテーブルは、実質波形であれば何でも登録できますし、マッピングも自由。なので、オシレーターの中でサンプリングしているような状態に近いです。

とりたてて、Wavetableシンセで有名なものに、Xfer Records社のSerumというソフトシンセがあります。このSerum用には多数のウェーブテーブルのパッチが公開、販売されており、HV1ではそのSerum用のウェーブテーブルも読み込めるとのこと。モジュラーのセットアップにおけるオシレーターの音色バリエーションが大きく広がりそうです。

フェーズシフト機能

もうひとつ、このHV1の特徴としてフェーズシフト機能があります。これは、このHV1に搭載されているアナログオシレーターのフェーズ(位相)をデジタル処理でずらすことが出来る機能です。

フェーズをずらすと何が起こるかというと、図のように、オリジナルがサイン波であったとすると、ちょっとだけ後ろか前にずれたサイン波が生成されます。

その結果どうなるのか?と言いましても、このズレというのは非常にわずかな時間ですから、人の耳には同じようにサイン波が鳴っているようにしか聞こえません。ですが、オリジナルのサイン波をL(左)、フェーズをずらしたサイン波をR(右)から鳴らすと、あら不思議、なにかリバーブがかかったような音に聞こえるのです。

聞こえ方としては完全にリバーブではないのですが、どこかステレオ感がする音になります。これは実際に部屋でシンセ等をならしている状態を想像して欲しいのですが、スピーカーから聞こえてくる音は、右の耳に入ってくるタイミングと、左の耳に入ってくるタイミングというのはわずかにずれています。これと似たような効果が、このフェーズシフトにより得られ、リバーブ的な音響効果になります。(リバーブというのは音が壁に跳ね返ってを繰り返しみたいな状態で得られる効果なので厳密には異なりますが)

これはフェーズシフトにより得られる効果の一つで、このほかにも、フェーズシフトをハードにモジュレーションさせたりしても、面白いです。(Line PMジャックでCVコントロール可)

HV1の手触り

Weston Precision Audioは今までも色々とオシレーターをリリースしているのですが、いずれもアナログな操作感がする印象のモジュールでした。そこに新しく作るのがデジタルなオシレーターなんだ……!と、リリース前は感じていたのですが、実際にできあがったものを触ってみると、とてもアナログな操作感のするオシレーターとして完成されている印象があります。

そういう体験を経てから改めて考えさせられたのが、「何がアナログらしさだと、自分は感じているんだ?」ということだったりしたんですが、おそらく、このHV1自体は一般的なVCOのごとく、ただ波形を出力しっぱなしにするだけ。そして、各種モジュレーションが用意されている。そしてそれらをコントロールするノブやジャックのインターフェースが用意されという点が大きいのかも知れません。

例えばウェーブテーブルを扱えるシンセとしては、当店ではOXI Coralがあります。OXI Coralはパワフルなシンセで、ウェーブテーブルはその中の一機能にすぎないんですが、ポリでも鳴らせて、より機能的にはリッチであることは確かです。なんですが、正直TakazudoはこのHV1を触るまで、OXI Coralにウェーブテーブル機能が合ったこと自体忘れてしまっていました。OXI Coralには非常にたくさんの機能があり、パラメーターも柔軟にコントロールできるようになってはいるものの、それは基本MIDI経由で行うものであり、パネル上に配置されているインターフェースはごく一部です。これに対し、アナログな操作感のあるモジュールというのは、そのモジュールの機能が絞られており、そしてそのパラメーターをコントロールするジャックやノブがパネル上に存在している。それゆえに機能の理解とコントロールに集中できるみたいな側面がある気がしています。(そのぶん出来ることも限られてくると言う側面もありますが)

これは当店で他に扱っているモジュールで言えば、MIDIでポリでも鳴らせるVector Waveでは無く、ALGOの操作感に近いと言えるかと思います。

そんなわけで、このHV1のオススメポイントとしては、ウェーブテーブルやフェーズシフトをじっくり触りたい人に是非どうぞ!という感じです。他、wavefoldingやチューナー、detune機能などもついているので、プリミティブなアナログのVCOと比べると色気がある感じ。ただしアナログの操作感は残してあるという、そんなモジュールだと思います。

参考動画

以下はWeston Precision Audio公式のHV1の紹介動画です。メニューの各項目について詳しく解説してくれているので、機能を把握したい場合にご参照頂けると良いかと思います。

マニュアル

公式のマニュアルは以下でダウンロード可能、英語のみでの提供です。

技術仕様

  • 幅: 16HP
  • 深さ: 25mm
  • 消費電力: 125mA +12V / 45mA -12V / 0mA +5V

付属品

  • 電源用リボンケーブル
  • ネジ
  • Weston Precision Audioステッカー

Weston Precision Audioについて

Weston Precision Audioは、アナログ設計に特化したモジュールメーカーであり、創設者のDevin Westonが手がける製品は、その直感的で使いやすいインターフェースが特徴です。

こだわりを感じるパネルやパーツ、一つ一つ丁寧にビルドされたモジュールには重厚さと高級感が感じられ、確かな品質のアナログモジュールを求めている方に是非おすすめしたいブランドです。

オマケ: 電氣美術研究會モジュラー小物セット付き

モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。

パッチケーブルや電源ケーブル、ドレスナットのサンプルセット、モノラルスプリッターなど、内容は時期に応じて変化します。商品に同梱しますので是非お試し下さい!

HV1 Hybrid Oscillatorの紹介は以上になります。

ご参考になれば幸いです。