Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、ADDAC SystemのADDAC217 Quad Gate to Triggerの紹介/解説記事になります。
ADDAC217は、4チャンネルのGateシグナルをTriggerシグナルへと変換するユーティリティモジュールです。チャンネル毎のBypass(バイパス)スイッチ付きで、時間的な長さのあるGateシグナルを、1msの長さのTriggerシグナルへと変換します。
こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。
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GateシグナルとTriggerシグナルの違い
このモジュールの解説をする前にまず、GateシグナルとTrggerシグナルの違いについて触れておきます。
CVとは
とりあえず言葉のおさらいとしてまとめると、モジュラーシンセのジャック間をパッチケーブル経由で流れているのは電流であり、各々のモジュールが、ケーブルの中の銅線へおおよそ+12V〜-5Vの電圧をかけ、その電圧の大小を信号として利用し、あれこれ電子部品が処理した後、最終的にスピーカーのコーンを上下させるということで音を作り出します。
それぞれのモジュールには多数のジャックが用意されており、例えばOscillator(オシレーター)であれば1V/Oct(1ボルトオクターブ)やFM Modulation(FMモジュレーション)、Low Pass Filter(ローパスフィルター)であればCutoff(カットオフ)やResonance(レゾナンス)などで、このジャックを使うことで、それぞれのパラメーターを外部からコントロールすることができるようになっています。
そのようなジャックは入力用のジャックで、別の出力用のジャックとパッチケーブルで接続し、前述の通り電圧をかけ、その大小を信号として利用することで、1V/OctやCutoffを制御することができような作りになっています。このように、モジュラーシンセを制御するための電圧をとりたててCV(Control Voltage)と呼びます。
Gateシグナルとは
そのCVの中で、とりたててON/OFFの二段階の情報が必要な場合があります。例えば、ドラムモジュールをトリガーするためのCVだったり、シーケンサーのステップを一つ進めるためのCVだったり、Sample & Hold(サンプルアンドホールド)でHoldをトリガーするためにつかうCVがこれに当たります。
そのようなCVは、以下のように、低電圧状態(0V)と高電圧状態(+5V等)の2段階で表現され、高電圧状態になったときがONであるという風に扱われます。
このようなCVを、取り立ててGateシグナルやGate CVと呼びます。
Triggerシグナルとは
これに対し、TriggerシグナルやTrigger CVと呼ばれるCVは、以下のようなものです。
前述のGateシグナル同様、ON/OFFの二段階の情報を表現するCVですが、Triggerシグナルでは、ONの状態の時間が非常に短いという違いがあります。
GateシグナルとTriggerシグナル
ただし、この2つの違うを明確に呼び分けることはそんなに多くはなく、一般的には「Gate」と呼ばれることが多い様に思われます。これはなぜかと言うと、モジュールの機能として、このGateの時間の長さを利用しないケースもたくさんあるためです。
例えば、以下のKick V2という、キックドラムのモジュールについて考えてみます。
このモジュールのTRIG
は、一定以上の(例えば2.5V以上などと設定されていたりします)CVを受けると、キックドラムの音を生成し、OUT
ジャックより出力します。
この時に渡すCVには、長さがあろうと無かろうと関 係ありません。Kick V2は、一定以上のCVを受け取ったそのタイミングにキックのサウンドを作るため、その後のON状態の時間の長さは、このモジュールの機能に何も影響しないのです。なので、このケースにおいては、Kick V2に渡すCVは、GateでもTriggerでもどちらでも関係ありません。
このように、ON状態の時間の長さを意識しないケースは多いため、一般にはこのように、ON/OFFを表現するためのCVは、「Gate」と呼ばれることが多いです。筆者Takazudoも普段Triggerという言葉を使うことはあまり無いです。
ADDAC217の機能
さて、ADDAC217の機能の話に戻りますが、このADDAC217は、そのようなGateシグナルを、長さ1ミリ秒のTriggerシグナルへと変換するモジュールです。え?今GateもTriggerも大して変わらないという話をしたばかりでは?という感じですが、この違いが生まれるケースもあります。
ADDAC106 T-Noiseworks
ADDAC Systemは、ドラムモジュールやEnvelope Generator(エンベロープ・ジェネレーター)をトリガーさせる時に、このGateとTriggerの適切な方を選択することがいかに重要かということを、T-Networksシリーズの開発の時に気付いたと、本モジュールの製品ページにて書いています。
当店で扱っているADDAC Systemのモジュールの中では、このGateとTriggerの違いが明確に現れるモジュールとして、ADDAC106 T-Noiseworksがあります。
T-Noiseworksには、それぞれのチャンネルにモードを切り替えるスイッチがあり、これをTRIGGER
にすると、前述のKick V2のように、高い電圧を受け取ったタイミングにオーディオを生成し、その減衰時間はDECAY
ノブで設定した時間になるモードになります。
これに対し、このスイッチをENVELOPE TRIGGER
にすると、INPUT
に一定以上のCVを受けている時間の長さに応じて、Decay(ディケイ)の時間が長くなります。なので、このEnvelope Triggerモードにおいては、INPUT
で受けるCVがGateの場合、ボリュームの減衰時間が長くなるわけです。
このモジュールの作る音はホワイトノイズをベースとしています。結果として、長さのあるGateを受けている時は、ザーッザーッというリリースの長い印象の音になるのに対し、受けるCVがTriggerの場合、減衰時間は、ザッザッというアタック感の強い音を生み出すという結果になります。
ADSR Envelope Generator + VCA
これは、Oscillatorの出力を、VCAとADSR Envelopeでコントロールする場合でも同様です。
一般的なADSR Envelopeを作るモジュールでは、ONになっている時間がADS部分の時間に相当します。
すると、例えば以下のようにAttackを0、Decay/Sustain/Releaseをそれなりの値で設定したEnvelopeの場合、GateではDecay→Sustain→Releaseを経て緩やかに音が減衰していくのに対し、Triggerの場合は即Releaseに移行するという違いが生まれます。
ADDAC217にはBypassスイッチが備わっているため、普段はBypassをオフにしてGateのまま使い、一時的にアタック間の強い音にしたいときにはTriggerへと切り替えるというようなパフォーマンスも可能になります。
このような違いを理解しておくと、より自分の望む音を作るためにどうすればよいのかが、より明確になるかもしれません。
このモジュールは3HPで4チャンネルも使えるので、気軽にGateをTriggerに変換するために使うことができる、コンパクトながら使い所の多いモジュールです。
シグナルフロー図
ADDAC217は非常にシンプルなモジュールです。以下のように、IN
から受けたGateシグナルをTriggerへと変換し、OUT
へ出力します。前述の通り、BypassスイッチのON/OFFにより、この変換を行うかどうかを切り替えることができます。
参考動画
以下は、ADDAC System公式Youtubeチャンネルにある、ADDAC217の解説動画です。例として挙げたADDAC106 T-NoiseworksのGateとTriggerの違いによる変化が確認できます。
技術仕様
- 幅: 3Hp
- 深さ: 25mm
- 消費電力:10mA +12V/10mA -12V
付属品
- フラットケーブル
- ネジ
マニュアル
以下公式サイトにて、マニュアルが公開されています。
ADDAC Systemについて
ADDAC Systemはポルトガルのモジュラーシンセメーカーです。
アナログ良さを生かした、ベーシックな機能をしっかり形にしているモジュールラインナップを基本としつつも、CVをMIDIに柔軟にコンバートしたり、高度にコントロール可能なグラニュラープロセッサー等、デジタル技術もうまく調和させた独創的なモジュールも数多くリリースしています。
オマケ: 電氣美術研究會モジュラー小物セット付き
モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。
パッチケーブルや電源ケーブル、ドレスナットのサンプルセット、モノラルスプリッターなど、内容は時期に応じて変化します。商品に同梱しますので是非お試し下さい!
ADDAC217 Quad Gate to Triggerの紹介は以上になります。
ご参考になれば幸いです。