
Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、Divergent WaveのSycamoreというモジュラーシンセサイザーの紹介/解説記事です。
Sycamoreはランダムループシーケンサーです。内部的に任意の長さの乱数配列を生成し、最終的にはスケールに沿った1V/Octを2系統出力するモジュールです。CVやGateトリガーによる多様なコントロールが可能で、Mutable InstrumentsのキャンセルされたプロジェクトSeeds(2015)のアイデアをDivergent Wavesの技術で大きく拡張した設計になっています。
このSycamoreはDivergent Wavesより直接DIYキットを購入し、私Takazudoの方で作成したものです。
本商品は、以下よりご購入頂けます。
- ランダムループシーケンサーとは
- Sycamoreざっくり基本機能解説
- Sycamoreの使い勝手
- その他の入出力ジャック
- スケール調整モード
- 2つ目の1V/Oct出力
- まとめとマニュアル
- 参考動画
- 技術仕様
- 付属品
ランダムループシーケンサーとは
ランダムループシーケンサーという言う言葉が世間一般的によく使われているわけではありませんが、このモジュールの機能を一言で表すとすればそのような表現になるでしょう。既存の類似するモジュールとしては、Music Things ModularのTuring Machineが挙げられると思われます。
Turing Machineは、ランダムなCVのシーケンスを作り、それをループさせる機能をコアにしている、様々なエキスパンダーがあって色々な使い方ができる面白いモジュールです。こちらのSycamoreは、同様にランダムな繰り返される情報をもとにしますが、出力されるのはスケールにクオンタイズされた1V/OctのCVです。そしてその出力される1V/OctのCVを、どのようにノブやCVでコントロールするアプローチがあるかというところによりフォーカスを当てたようなモジュールになっています。
単にCV をループさせるだけでなく、自身でスケールを定義できたり、スケール内で使用する音階を限定したり、生成される1V/Octのレンジをコントロールすることができたりなど、ランダムCV生成とクオンタイザーが一つに融合しているようなモジュールであると言えるでしょう。
Sycamoreざっくり基本機能解説
まず、このSycamoreの機能をざっと理解してもらうため、各種ノブを以下のように設定したとします。

とりたてて、Sycamoreを操作する時に中心となるであろう、赤枠で囲んだ4つのノブに注目して下さい。
Scale
エンコーダーを回し、数字LEDを1
に設定(Cメジャースケールが設定される)Shift
ノブを反時計回りいっぱいに(CVのオフセット設定無し)Quantize
ノブを時計回りいっぱいに(スケール内の全音階CDEFGABを使用)Length
ノブを時計回りいっぱいに(64ステップ分のシーケンスが生成される)Range
ノブを時計回りいっぱいに(ピッチの範囲は5オクターブ)
そして、Clock
ジャックに、Gateシグナルを連続的に送ります。そしてOut1
ジャックから出力されるシグナルを、VCOの1V/Octジャックに渡します。

すると何が起こるかと言うと、Sycamoreは、Clockが渡されるたびに、Cメジャースケール内の音階を5オクターブの中からランダムにひとつ抽選し、その1V/Oct CVをVCOに渡します。
そして、この状態だとLength
は時計回りいっぱいの最大の状態に設定されているため、内部ではSycamoreの作れる最大ステップ数である64ステップ分のシーケンスが生成されています。65回目のClockがSycamoreに渡されると、64ステップ目までに出力されていたシーケンスが、再び1から開始されるという具合です。
このシーケンスは、用意されているノブや用意されているボタンを回すと、それぞれ以下のように変化します。
Scale
エンコーダー: スケールの設定
Scale
エンコーダーを回すと、数字LEDに表示される数値が変化します。ここで表示される数値は、作り出される1V/OctのCVを、どのスケールでクオンタイズするか
を表しています。前述した例だと1
で、作り出される1V/OctはCメジャースケールの音階になります。このエンコーダーを回していくと、例えば以下のようなスケールに切り替わります。
2
: Cマイナースケール3
: Cミクソリディアン10
: Cドリアン16
: Cハーモニックマイナー
スケールの一覧は内臓のRasberry Pi Picoにテキストファイルとして保存されており、Sycamoreにはデフォルトで50種類のスケールがプリセットされています。それぞれの番号が何に当たるのかは、以下に一覧があります。(ファームウェアv1.0時点)
Rasberry Pi Picoは、PC/Macと、モジュラー背面にあるポートをUSBケーブルで接続することでアクセス可能であり、スケールのテキストファイルをユーザーが自由に編集し、自分の好みのスケールを作っておくことが可能です。
Shift
ノブ: オフセット
Shift
ノブは、作られる1V/Octのピッチを上下させる
機能を持ちます。前述の例では、Shift
ノブを反時計回りいっぱいに設定していたため、作られるピッチは最も低い状態です。時計回りに回していくと、ピッチが上がっていくことを確認できます。
Quantize
ノブ: スケール内で使用される音階のフィルタ
Quantize
ノブは、クオンタイズに使用する音階をフィルタする
機能を持ちます。前述の例では、このノブを時計回りいっぱいに設定していました。これは、Cメジャースケール内の全音階CDEFGABを使用するという意味を持ちます。
このノブを中央ぐらいの位置にすると、使用される音階はCEGのメジャーコードの音階に、反時計回りいっぱいの最小値にすると、使用される音階はCのみになるという具合です。
つまり以下がQutntize
ノブがめいっぱいの時。青で囲んだところが有効な音階です。

そして以下がQuantize
ノブが中央ぐらいの時です。

どうしてこうなるんでしょう?
この理由を説明しましょう。このノブでフィルタされる音階は、前述のスケール設定が書かれたテキストファイルの順序を尊重しています。1
番のCメジャースケールの場合、該当のスケールを示すテキストファイルには以下のように書かれています。
{
"notes": [0, 4, 7, 9, 2, 5, 11],
"index": 1
}
ここで書かれているnotes
の数字が、それぞれの音階を示しており、前述の図の鍵盤それぞれに書いた数字と対応しています。これを良く見比べてみて下さい。順に全部鍵盤を埋めていくと、白鍵が全て埋まります。よって、Quantize
ノブを時計回りいっぱいに回すと、Cメジャースケールの全音階が使用されることになります。
このnotes
の数字は、0, 4, 7
で始まっていることに注目して下さい。0, 4, 7
は、CEGです。Quantize
ノブを最大から反時計回りに回していった時、このnotes
に書かれている数字に相当する音階を、後ろから除外していきます。なので、半分ぐらいにすると、この数列のはじめから3つか4つぐらいが残ることになる結果、CEG
の音階が残ることになります。
このように、Sycamoreに内蔵されているスケールのプリセットは、色々なスケールの音階を表したものになっていつつも、適度に音階を飛ばした順序になっています。このため、Quantize
ノブを回して音階を絞っていくと、例えばこのCメジャーの1
番のスケールの場合、CEG
が残ってメジャーコード感のある音だけが残る結果になるのです。
Length
ノブ: シーケンスの長さ設定
Length
ノブは、生成されるシーケンスの長さを設定します。最小値1〜最大値64までの範囲で設定可能です。前述の例では、時計回りいっぱいに設定していたため、64ステップ分のシーケンスが生成されていました。反時計回りに回すと、シーケンスの長さが徐々に短くなっていき、ちょうど中央で32ステップ。反時計回り方向一杯に回すと、1ステップのシーケンスになります。

Range
ノブ: ピッチのレンジ設定
Range
ノブは、生成されるピッチのレンジを設定します。最大5クターブです。前述の例では、時計回りいっぱいに回していたため、5オクターブの非常に広い範囲の中からピッチが選ばれていました。これを反時計回り方向に回していくと、徐々にピッチの範囲が狭まっていき、中央付近で約2.5オクターブ、反時計回りいっぱいに回すと、最も低いCのほぼ単音しか鳴らなくなります。

Clock
ボタン: マニュアルClockトリガー

基本的にはClock
ジャックにGateを受けてシーケンスを進める使い方が主となるかとは思いますが、このClock
ボタンを押すことでシーケンスをマニュアル操作で一つ進めることが可能です。
Seed
ボタン: シーケンスのランダマイズ
Seed
ボタンを押すと、現在Sycamoreが鳴らしているシーケンス情報を破棄し、新たなシーケンスを生成し直します。まるっきり新しくシーケンスを作り直したい場合に使用します。
Mutate
ボタン: 次のステップのみを変更
Mutate
ボタンは、シーケンス情報のうち、次のステップのピッチのみを変更するボタンです。Seed
ボタンがまるっきりシーケンスを置き換えてしまうのに対し、こちらのMutate
が変えるのは次のステップのピッチのみです。このため、今のシーケンスを大きく崩さず、部分的な変更を加えたい場合に有効です。
そして、このMutate
により変更されるステップのピッチの高さは、Aux
ジャックに渡されるCVの大きさ(0V〜+5V)が反映されます。Aux
ジャックに何もCVを渡していない場合、0Vとして扱われるため、Mutate
をうまく活かすには、Aux
へ固定電圧や、CVシーケンサーからのCV出力を渡す必要があります。
以上がSycamoreの基本的な機能解説になります。
Sycamoreの使い勝手
まだ説明は続けますが、一旦ここで基本的な部分のまとめとして、Takazudoの所感を述べておきます。
このSycamoreというモジュールですが、まずは自分の好きなスケールの番号をあらかじめ覚えておき、Scale
エンコーダーでそのスケールを選択。後はClock
にGateを渡しながら、自分の好きなメロディーが生まれるように各ノブをいじったり、Seed
やMutate
ボタンでシーケンスを調整したりするという使い方が基本となりそうです。
Takazudo個人的にSycamoreが使いやすいと感じるのは、このモジュールは内部的に
- 乱数を生成している部分
- クオンタイズの処理
がきっぱり分かれており、出力される1V/Octが更新されるタイミングが、Clockを受け取ってシーケンスのステップが進んだ時のみというところです。ノブを適当にいじっていても、今出力している1V/Octが突然変わってしまうということがないため、
- ランダムCVシーケンス作成モジュール
- Sample & Hold
- クオンタイザー
の3つが一つになっているようなモジュールにように感じます。
また、このランダム生成という部分の使い勝手が良いです。何かランダムな1V/Octを自分で組む場合、例えばホワイトホイズなどをソースにして、ランダムなメロディーを作ることができます。ホワイトノイズをclockごとにSample & Holdし、クオンタイザーを通せば、それだけでクロックごとに変化するランダムメロディーが作れます。ただこの方法ですと、常に変化し続けるランダムさになってしまい、ランダムすぎる!という感 じになってしまいがちになるのです。(Takazudoの主観としてですが)
これに対しSycamoreの場合、ピッチのレンジや音階のフィルタ、シーケンスの長さをコントロールできるうえに、Seed
でのシーケンス再生成、Mutate
での部分的な更新も可能なので、ランダムさをなかなかいい塩梅に制御可能というのが魅力的です。
この制御は、ただ変化させたければSeed
を押すのでも良いのですが、Sycamore外でMutate
に渡すGateとAux
に渡すCVをシーケンスすることで、ランダムながらも思ったようにコントロールが効く塩梅を実現しているように感じます。(これについてはこのあと解説します)
なので、なにかこのモジュールと、それを取り巻くCVやGateを制御し続けるだけで、規則性をそれなりに保ったパフォーマンスを、永続的にできる感覚があります。そこがとても面白いモジュールかとTakazudoは感じます。
その他の入出力ジャック
ここからは、これまでに触れていない点、やや発展的な部分も含めてーーについて書いていきます。
まずは、モジュール下部 にある各入出力ジャックについてです。

ここまでで触れて来たものもありますが、それぞれ説明します。
Clock
: Gateシグナル入力。シーケンスのステップを一つ進めます。(Clock
ボタンと同機能)Seed
: Gateシグナル入力。シーケンスを再生成します。(Seed
ボタンと同機能)Mutate
: Gateシグナル入力。次のステップのピッチのみを変更します。(Mutate
ボタンと同機能)Aux
:Mutate
ボタン/CV入力と併せて使用。0V〜+5VのCVを受け付けます。Shift
: -5V〜+5VのCV入力。Shift
ノブ値のオフセット。Length
: -5V〜+5VのCV入力。Length
ノブ値のオフセット。Quantize
: -5V〜+5VのCV入力。Quantize
ノブ値のオフセット。Range
: -5V〜+5VのCV入力。Range
ノブ値のオフセット。Out 1
: メインの1V/Oct CV出力します。Out 2
: サブシーケンスの1V/Oct CVを出力します。
ここで新出なのはOut 2