ADDAC System: ADDAC112 VC Looper & Granular Processor紹介

2024/05/20 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、ADDAC SystemのADDAC System: ADDAC112 VC Looper & Granular Processorの紹介/解説記事になります。

ADDAC112は、多様なパラメーターをCVコントロール可能なLooper(ルーパー)&Granular Processor(グラニュラープロセッサー)です。使いやすいQuantize(クオンタイズ)機能のついたLooperをベースに、多様なグラニュラーの処理が可能なこのモジュールは、ADDAC Systemのグラニュラーに対する「ソフトな」アプローチを表現した楽器として作り上げられています。

こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。

商品写真

写真:ADDAC112本体側

写真:ADDAC112拡張側

写真:ADDAC112裏側

写真:付属品

Looper/Granular Processorとは

まず、このモジュールは、その名にあるようにLooperとGranular Processorです。Looperというのは、入力されたオーディオを録音し、そのオーディオを連続して再生させる。そしてオーディオのスピードを変えるなどの機能を持つ音楽機材のカテゴライズ名称です。古くは、テープのリールに録音した音をループ再生させて楽器として使ったアプローチを発端としていると思われます。

Granular Processorの「グラニューラー」というのは「粒状の」というようなニュアンスの言葉です。なにが粒なのかというと、この場合の粒は「音」の断片です。粒=Grainです。Granular Processorは、音を細かく分割し、時にそれは数ミリ秒というぐらいの小ささのGrainへ分解します。このGrainをいくつも重ねたり、ボリュームを変化させたりなどなど、様々な方法で音を加工し、再生させる類の音楽機材は、Granular Processorと呼ばれます。

モジュラーシンセサイザーの中には、この2つの機能を備えたモジュールが存在しています。このLooperとGranular Processorというのは、明確に分かれているわけでもなく、両方の機能を持つモジュールもあります。(いずれもオーディオの録音と再生をベースとしているため)

具体的にこのような機能を持つモジュールで著名なものとしては、以下のモジュールが例としてあげられます。

ADDAC112とは

ADDAC112の話に戻ります。そんなLooperであり、Granular ProcessorであるADDAC112は、ADDAC System的にこの2つの機能の解釈し、形にしたものと認識するのが良いかもしれません。ADDAC Systemは、このADDAC112の説明をする時に、Granular Processingへの「ソフトな」アプローチを採用したと言う言葉を使っています。

何がどうソフトなのか。このページでは、そのソフトさが少しでも伝わればというつもりで文章を書いています。

Looper部とGranular Processor部

まず、このADDAC112の機能を、一気に把握しようとするのはかなり難しい様に思われます。筆者TakazudoがADDAC112を使ってみた感じですと、このADDAC112を理解するためにはまず、このモジュールは、内部的に、

  • Looper部
  • Granular Processor部

の2つに分かれているという風にまず認識しておくと、理解が進みやすいように思われました。そして、Granular Processor部は、Looper部の上にのっかるような形で成り立っています。

以下はこのモジュールのメイン部分ですが、

図:機能のグルーピング

上記で色を付けてある部分はそれぞれ、以下のように処理する対象が異なります。

  • 赤: Looper部
  • 黄: Granular Processor部
  • 青: Mixer部

このモジュールにはたくさんのノブがありますが、このうち、まずはLooper部だけ使って、Mixer部でGRAIN VOLUMEGRAIN FEEDBACKをゼロにして、Looperの使い方だけをまずは模索するのをオススメします。

Looper部

このADDAC112は、ひとまず何か音の出る別のモジュールの出力を接続して試すのが良いでしょう。

図:Looper部のボタンなど

Oscillator(オシレーター)やら何やらの出力をAUDIO INSに接続し、NEW RECボタンを押す。するとLooperの録音が開始されます。そしてちょっと時間が経過したらSTOPボタンを押す。これで録音が完了します。その後PLAYを押すとバッファに録音されが音がリピート再生される。これがまずLooperの基本的な機能です。

しかしもちろんこれだけではありません。LOOP PITCHノブを回せば録音したオーディオのピッチが変化。この変化はQUANTIZEノブの位置により、任意のスケールに沿った音程に絞ることも可能です。その上でさらにRECボタンを押せば、バッファにあるオーディオを残しつつ、その上に上書きする形での録音が可能です。(テープに何度も別の録音を重ねるイメージ)

OVERDUB DECAYノブでバッファにあるオーディオと新規に録音されるオーディオのバランスを調整。適当な長さのバッファをまず作り、あとはずっとREC状態にしておけば、はじめに作ったバッファが、何度もリピートされながら、そのバッファを上書きするように録音が延々と繰り返されます。これでマニュアル作成したDelay(ディレイ)の完成。BPMが固定されているケースであれば、このバッファの長さをClockでビートに合わせた長さにすることで、Clocked Delayになります。

ここまででまだLooperの機能しか使っていませんが、Looperだけでも多様な音作りが可能です。

Granular Processor部

そんなわけでLooperを使いつつ、今度は始めにゼロにしたGRAIN VOLUMEをある程度上げ、Granular Processorの音を混ぜてみます。

図:Granular Processorに関するノブなど

GRAINS ACTIVEは、アクティブなGranularの数をコントロールするノブです。このノブを右に回せば、何やら細切れの音が聞こえてきます。ディスプレイ上にも、バッファ上にあるGranularの位置が表示されていきます。

図:ディスプレイ上の表示

ADDAC112のGranular Processorは、バッファにあるオーディオを素材として、Grainを作成します。このGrainはどの部分から抽出するのか?どのくらいの長さにするのか?逆再生させるか?Envelopeは?リピートするのか?LRのバランスは?などなど、残りのノブの大半は、この多様なGranular関連の設定をするためのものです。ディスプレイに表示されている内容は、下部にあるギザギザがバッファに録音されているオーディオ、上に表示されている四角がGrainを示しています。

このあたり、どのノブをどう回したらどういう音が出るのか。これはこのADDAC112を触るまで、想像するのは難しいでしょう。ですが、それはこの楽器と対峙する前提として求められている知識ではありません。このADDAC112という楽器は、そのように、Granular Processorを用いた表現を、使用者が模索できるように作られていると筆者Takazudoは感じます。

ソフトなアプローチ

そんな風に、Looperをベースとし、その上にGranular Processorが存在しているような設計になっているので、まずは単純にDelayやサンプル再生のためのモジュールとして使いつつ、そこにGrainを乗せていくような使い方が可能です。ADDAC Systemが言う「ソフトな」アプローチというのは、このようなライトにもヘビーにも使える設計になっている点を指しているのかもしれません。

要するに、一見めちゃくちゃにややこしそうに見えますが、基本は録音&再生するためのものであり、そこに色々な味付けができる、その部分はかなり奥が深いという楽器になっているのです。さらにほとんどのパラメーターがCVコントロール可能なので、シーケンサー等と組み合わせれば、その表現の幅はさらに広がります。

筆者としては、Granular系のモジュールをこれまでいくつか使ってみたことがあるのですが、正直なところ使い所がよく分からないと感じることが多かったので、このADDAC112はなかなか興味深いモジュールでした。

このADDAC112には、音素材を保存する単位として、BankPresetといった、設定や音素材を管理するための機能を持っており、総じて言えばこれで一つのオペレーティングシステム的なものとして作られています。なので一通りの機能を理解するには、そこそこの時間を要すると思われますが、腰を据えてLooper&Granular Processorを使ってみたい人には、かなりオススメしたいモジュールです。(筆者Takazudoもこの解説を書くに至るまで結構な時間を要しました……)

参考セッション

筆者Takazudo自身もADDAC112を理解するために色々触ってみたので、2つほどADDAC112を使ってみたセッションを紹介します。

Delay的に使う

1つ目は、SycamoreADDAC701.REV2 VCOを使っているセッションです。

このセッションでは、基本的にシンセをジャカジャカ鳴らしているだけで、それをADDAC112に渡し、Delay的に使っています。始めにClockにあわせて2Bar分ほどのバッファを作ってき、あとはずっとREC状態にすれば、前述したようなDelayとして機能します。そこにたまにGrainを混ぜてみているという具合です。

QUANTIZEをいっぱいに回してOCTAVESにしておけば、Looperの再生はオクターブ毎のピッチ変化になります。そのようにピッチを変えてしまったら、ループの再生は通常、テープを早回しにしたみたいにテンポと合わなくなってしまうのですが、Looperのピッチ変化のオプションとしてPitch Shift(ピッチシフト)も選んでおくと、バッファにあるオーディオにはPitch Shiftをかけた状態、つまりテンポを維持した状態でオクターブ上下の音色へと変化させることが可能です。すると、元のシンセ音はそのままに、その上下オクターブの音色を混ぜたような効果を作れたりなど、このセッションにおいてはADDAC112は色気のあるDelayと言った感じです。

CVコントロールして使う

2つ目は、別のLooperモジュールであるInstruo: Lúbadhと組み合わせたセッションです。

このセッションでは、Lúbadhからはずっとループ素材を流し、ADDAC112のLooperでそれを録音した後、OXI ONEで作っているCVシーケンスでひたすらADDAC112のピッチを変化させつつ、色々なパラメーターをノブで変えてみています。

このセッションは、自分がADDAC112の機能を色々理解するためにいじっていたら結果的にこうなったという感じの録画です。はじめ自分はこのADDAC112に対して、すごそうだけど小難しい機能が沢山ついているモジュール?という印象を持っていたのですが、色々と解説を書くためにこのADDAC112をいじっていて、こういう楽器なんだと理解した感覚がありました。

参考動画

このモジュールはYouTubeにたくさん参考動画があります。
基本的な挙動を学ぶにはひとまずこの動画がオススメです。

その他参考になりそうな動画をいくつか挙げておくので、ご興味ありましたらぜひご覧ください。

技術仕様

  • 幅: 32HP + 13HP
  • 深さ: 45mm
  • 消費電力: 240mA +12V/70mA -12V

付属品

  • フラットケーブル4本(細2本電源用/太2本モジュール間接続用)
  • ネジ

マニュアル

以下公式サイトにてマニュアルが公開されています。
このモジュールは、マニュアル無しで理解するのはかなり難しいかと思われますので、マニュアルを紐解きながら使ってみることをオススメします。非常に詳しく書かれています。

ADDAC Systemについて

ADDAC Systemはポルトガルのモジュラーシンセメーカーです。

アナログ良さを生かした、ベーシックな機能をしっかり形にしているモジュールラインナップを基本としつつも、CVをMIDIに柔軟にコンバートしたり、高度にコントロール可能なグラニュラープロセッサー等、デジタル技術もうまく調和させた独創的なモジュールも数多くリリースしています。

電氣美術研究會

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電氣美術研究會

モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。

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