ADDAC System: ADDAC216 Sum & Difference紹介

2024/05/23 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、ADDAC SystemのADDAC216 Sum & Differenceの紹介/解説記事になります。

ADDAC216は基本的には2セクションのミキサーです。ですが、この2セクションのミキサーは多様なCV/オーディオ合成処理が行えます。各セクションには2つのCV入力ジャックが用意されており、個別のAttenuvert(アテヌバート)、2つのシグナルのミックスFull Wave Rectification処理ACカップリング処理、シグナルの反転平均値の算出。これらが一つにおさまっているのがこのADDAC216というモジュールです。

こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。

商品写真

写真:商品表側

写真:商品横側

写真:商品裏側

ADDAC216の概要

ADDAC216回路図

こちらのモジュールがしてくれることを理解するには、処理の流れを示した図(マニュアルより引用)を見ていただきながら把握してもらうのが良さそうです。

このモジュールには、AおよびBとラベル付けされた2つの同機能を持つセクションで構成されます。2つのセクションはそれぞれ独立しており、CVの加算・減算等の処理が行えるまとまりが、2つセットになっていると考えてください。

このモジュールは基本的にはミキサーなのですが、通常のミキサーが2つの入力信号(IN XIN Yからの入力)を単に加算するのに対して、信号の減算も可能な特殊なタイプのミキサーです。

さらに、オーディオ信号CV信号の両方に対応しており、2つのCVの差を出力したり、2つのオーディオ信号の位相をキャンセルしたりすることができます。

加算または減算の結果得られる信号は、次にABSOLUTEとラベル付けられた切り替え可能な(オン/オフ)Full Wave Rectification回路を通過します。

その後、ミックス信号のゲインはAMPLITUDEとラベル付けられた別のAttenuverterを通過し、結果の信号ゲインを制御します。Amplitudeの後にはAC/DCカップリングスイッチがあり、次にバイポーラオフセットノブが続きます。

通常の出力に加えて、AおよびBの各セクションには反転出力INVERTED OUT)も用意。AおよびBのセクションの出力は合計され、AVERAGE OUTに送られます。

単一の入力、XまたはY入力のみを使用すると、このモジュールは単純なデュアルアッテヌバーターおよびオフセットCVプロセッサとしても使用でき、Full RectificationおよびACカップリング処理が利用可能です。

ADDAC216解説

このモジュールがやってくれることを全てちゃんと理解するのは、モジュラーシンセ始めましたぐらいの方にとっては、かなり難しいと思われます。そういう方向けにこのモジュールを説明するとすれば、あれこれCVを足したり引いたりとかが一気に色々できるモジュールと認識しておいてもらうと良いかもしれません。逆に考えると、そういうCV合成処理をしたいと思ったら、これ一つあればかなり色々なことができるという風に考えてもらえればと。

本項では、ここまでで書いてきた加算や減算といったことは、具体的にどういうことなのかを簡単に解説しますが、このADDAC216ができることを理解するには、他のよりシンプルなモジュールがしてくれることを理解してからのほうが早いかもしれません。CVの加算、減算、Attenuvert等については、以下モジュールの解説の中でも触れていますので、併せて参照してみてください。

また、このようなCV合成処理については、慣れてくれば頭の中で想像しながらできるようにはなってきますが、理解のためのステップとしては、Mordax: DATAや、Korg: NTS-2等のオシロスコープを併せて使い、理解することを推奨します。

ということで、一つずつ見ていきます。

加算

まず、これはどんなミキサーもそうなんですが、2つの電圧をミックスするということは、その2つの電圧を加算するということです。例えば以下は、2つの電圧を加算した例を示した図です。

図:信号の加算

1つ目の波形はサイン波です。2つ目の波形は、前半ではプラスの電圧が、後半では0Vで特に電圧がかかっていない状態を示したものです。

この時、2つ目の波形の前半部分のみがプラスなので、2つの電圧を加算した結果は、前半では1つ目の波形が、2つ目の波形の前半部分でプラスになっている分、上にずれた波形になります。

波形というのは、縦軸に電圧を、横軸に時間の経過を表したものなので微妙に分かりづらいかもしれませんが、この波形の横軸が示す、あらゆるタイミングで、その時点での2つの電圧が加算されていると想像して頂ければと。

減算

減算について、このADDAC216では、Attenuverterでマイナスに反転させたものを加算するという形になりますが、前項での例をそのまま減算したとすると、以下のような図になります。

図:信号の減算

ここでは、前半部分で上に持ち上げられていた部分が、逆に下がっており、マイナスの電圧になるという結果がもたらされます。ひっくり返して加算しているのです。

Full Wave Rectification

はじめにFull Wave Rectifiction処理が行えると書きましたが、これは、ABSOLUTEBIPOLARと書かれたスイッチを、BIPOLARの方に切り替えた時に行われる処理です。このスイッチをBIPOLARにすると何が起こるかというと、渡された電圧はFull Wave Rectification回路を通り、結果、その時点での電圧は、もともとの電圧の絶対値へと変換された値へと変化します。

言葉にするとややこしいですが、マイナス値の電圧は、-1をを掛け算してプラスの電圧に変換されるということが起こります。これを示したのが以下の図です。

図:Full Wave Rectification

このような処理のことをFull Wave Rectificationと呼びます。

ACカップリング処理

DCACと書かれたスイッチをACに切り替えると、ACカップリング処理が行われます。これは、電圧が上下にずれた状態(DCオフセットを持った状態と言う)を、中央値が0Vになるように調整する処理です。図にすると以下のようになり、左が処理前の波形、右がACカップリング処理後の波形です。

図:ACカップリング処理

モジュラーシンセを使っている分には、電圧をかなり自由に上下させ、それをパラメーターを変化させる信号として利用しますが、最終的にスピーカーに渡し、音を鳴らすタイミングにおいては、上図の元の波形のような、0Vを中央値としない波形を使うことはほぼありません。

一般的にはオーディオ処理を行う機器が、このような電圧のズレ(DCオフセット)を補正し、スピーカーへと信号を渡すことになります。その時に使われるのがACカップリング処理で、このACカップリング処理を行うことで、スピーカーの破損や音質の向上に繋がるそうです。

このADDAC216についているDCACスイッチをACに切り替えることで、この処理を行わせることができます。この機能は、端的に言えば、渡された電圧をオーディオとして処理する際、処理した結果が変に電圧として上下にズレた状態になっていると色々問題を引き起こす可能性があるので、そのような時に使うことになるでしょう。

ノイズキャンセリング

筆者Takazudoは、オーディオシグナルを細かくどうこうする処理をモジュラーでやったことはほぼ無いので、この記事を書きがてら調べた程度の知識ですが、例えばノイズキャンセリングという技術は、端的に言うと、ノイズ混じりのオーディオに、外部の環境音の信号を減算することで実現される手法です。

このADDAC216でも似たことができると思われますが、そのような、なにかしらオーディオシグナルを処理した際に、このモジュールからの出力をオーディオ信号として利用したい際、問題になるかもしれない電圧の中央値のズレを解消するため、ACカップリング処理を挟む……という使い方になりそうです。(参考: YouTube: 超わかりやすい「音の位相」についての解説 - flstudio

反転出力

ADDAC216の最後についているINVERTED OUTジャックからは、電圧を反転させた結果、つまり-1を掛けた結果の電圧が出力されます。

図:反転出力

平均値出力

もう一つ最後についているAVERAGE OUTからは、2つのセクションで作られた電圧を加算し2で割った、平均値の電圧が出力されます。

図:平均値出力

平均値と言われると難しく聞こえるかもしれませんが、複数の電圧を加算していった場合、例えば複数のLFOなんかを加算した時、モジュラーシンセでよく使われる+5V〜-5Vの範囲を超えてしまったりするので、そのようなケースで、オマケのようについているこのAVERAGE OUTから出力される平均値の電圧が便利に使えるかもしれません。

ADDAC216の使いどころ

以上がこのモジュールでできることの解説になります。このモジュールは、CVのミキサーが欲しい時になかなか有力な選択肢だと筆者Takazudoは考えています。モジュラーシンセを使っていて、CVをあれこれ加工したいかどうかは人によるかとは思われますが、Takazudo個人は、シーケンサーで作るCVを足したり引いたりということを、割と頻繁にします。

そんな風にCVを足したり引いたりひっくり返したりしたい場合、そのようなことをするモジュールが、こまごまと複数必要になることは、それなりにあります。例えば、LFOをマイナス方向に少しずらして、シーケンサーから出力されるCVと加算したいと考えた時、一般的なMixerの他に、Attenuverter用意する必要があるでしょう。

そのような時にこのモジュールは、万能ユーティリティCVミキサー的な役割を果たしてくれます。個人的な感覚ですが、2つのCVをミックスできるペアが2セクションという塩梅も丁度よいです。

Full Wave Rectivitaionなんかも、解説だけ見ると「何に使うの?」という感想を持たれるかもしれませんが、Oscillatorの波形を処理したり、モジュレーションに使うLFOを通したりすることで、順当にパッチングしていたらたどり着かないような音作りにつなげることができるというのも、モジュラーシンセサイザーの楽しみの一つだと筆者Takazudoは考えています。

是非CVをあれこれいじって試す時に使ってみて欲しいモジュールです。

技術仕様

  • 幅: 8Hp
  • 深さ: 36mm
  • 消費電力: 80mA +12V/ 80mA -12V

付属品

  • フラットケーブル
  • ネジ

マニュアル

以下公式サイトにてマニュアルが公開されています。

ADDAC Systemについて

ADDAC Systemはポルトガルのモジュラーシンセメーカーです。

アナログ良さを生かした、ベーシックな機能をしっかり形にしているモジュールラインナップを基本としつつも、CVをMIDIに柔軟にコンバートしたり、高度にコントロール可能なグラニュラープロセッサー等、デジタル技術もうまく調和させた独創的なモジュールも数多くリリースしています。

電氣美術研究會

オマケ: 電氣美術研究會モジュラー小物セット付き

電氣美術研究會

モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。

パッチケーブルや電源ケーブル、ドレスナットのサンプルセット、モノラルスプリッターなど、内容は時期に応じて変化します。商品に同梱しますので是非お試し下さい!