Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、AI SynthesisのAI022 Harmonic Mixerの紹介です。
AI022 Harmonic Mixerは、モノラル3chのミキサーモジュール。ゲインを上げると、倍音が豊かになり、暖かさと歪みを入力オーディオシグナルに与えます。
アルミニウムパネル版、黒パネル版の2種類があり、DIYキットも併せて取り扱っています。
こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。
- 商品写真: 完成品
- 商品写真: DIYキット
- AI022 Harmonic Mixerの機能
- ミキサーが音を変化させる?
- Harmonic Mixerの使いどころ
- 類似モジュール
- 参考記事
- その他参考動画
- 技術仕様
- DIYガイド
商品写真: 完成品
商品写真: DIYキット
AI022 Harmonic Mixerの機能
AI022 Harmonic Mixerは、CP3スタイルの、ICを使用しないディスクリートミキサーです。ゲインを上げると倍音とアナログの暖かさが追加され、さらにゲインを上げると歪みと位相変化(フェージング)が加わり、入力オーディオソースに変化を与えます。
AI022は、伝説的なMoog Modular CP3スタイルミキサーにインスパイアされて設計されたもので、ユーロラック向けに回路をカスタマイズしたものになっています。多くのMoog Modularユーザーは、CP3ミキサーモジュールが、Moog Modularサウンドの暖かさを提供していると評価しているとのことです。
MIX
ノブの横に用意されたBIAS
ノブににより、合成された波形を±5Vの範囲でオフセット調整することも可能。単純なミックスだけでなく、過激に波形を変化させることもできます。
以下は、AI Synthesis公式のデモ動画です。入力したサイン波や三角波はクリップしたり、突然ひっくり返ったりしている部分があることを確認できます。
ほか、YouTube: Robots Are Red チャンネルの以下動画では、様々なオーディオをこのミキサーに通した結果を確認することが出来ます。
ミキサーが音を変化させる?
このモジュールは、3つの入力を加算合成するミキサーです。ここまでで、「暖かさ」とか「歪み」等と書いてきており、このような表現は様々な音楽機材で見かけることがあるかと思われます。正直、そのような言葉を使うのは、音を聞かなければ形容出来ない側面があるかとは思うのですが、それは一体どういうことを表しているのか、おそらくある程度モジュラーを触っていないとわからないかもしれないので、簡単に説明しておきます。
ミキサーは中で何をしているのか
まず、どのモジュールもそうなのですが、CVでもオーディオでも、波形を出力する際、その生成される波形はどこまでも高い電圧になるわけではありません。一般的なモジュラーシンセでは、概ね±5Vぐらいの範囲の電圧の揺れを出力するように設計されています。
単純に±5Vの電圧を3つ足したら、±15Vの電圧が出てきそうなものですが、モジュール内部の回路設計により、±5Vの範囲に収められた結果が出力されるのです。そして、それがどのようにならされるかは、使っている部品の組み合わせにより決定され、これがモジュールの特色として表れます。
例えばデジタルモジュールでは、内蔵のソフトウェアにより波形を合成するため、バッサリ±5Vを 超える範囲を切り捨てたり、もしくはそう極端に切り捨てる結果にならないよう、工夫したプログラムになっているかもしれません。これに対し、アナログ部品を使っているモジュールでは、抵抗、ダイオード、オペアンプやトランジスタといった部品の組み合わせにより、入力電圧を下げたり混ぜたり、その後上げたり、高すぎる電圧を縮めたりなどした結果を出力します。ここで面白いのが、そのような処理の結果、入力シグナルをただ混ぜただけではない出力結果が生まれるというところです。
入力シグナルが変化している例
例えば以下は、前述のAI Synthesisの公式デモ動画の一部で、左から、サイン波、ノコギリ波、三角波の入力(緑)と、ゲインを上げて歪ませた出力(赤)結果をMordax: DATAのオシロスコープで表示させたものです。
3つのいずれも、ゲ インで出力を上げた際、クリップされた部分が平らになっていることが確認できます。この結果、矩形波に近い音色へと変化します。また、サイン波に至っては、取り立てて出力電圧の絶対値が高い部分においては、まるっきり±がひっくり返った出力になっていることも確認できます。
筆者はなぜこの様な挙動になるのか理解はしていませんが、重要なのは、このような結果をもたらすのは部品の組み合わせの妙により成り立っており、それがこのミキサーモジュールの設計です。この結果、入力シグナルの音色変化を発生させています。
つまるところ、このミキサーは、ゲインを上げればこのミキサー固有のディストーションがかかるという風に認識していただくのが適当かと思います。単純な波形を鳴らしているだけではなにか味気ないと感じた際、このようなミキサーを使ってみると、新しい発見ががあるかもしれません。
多数のチャンネルがあるトラック全体を管理するようなミキサーではなく、ただ3チャンネルだけの、システムの一部がこのような味付けがされているという点も、モジュラーシンセらしいところだと筆者は感じます。
Harmonic Mixerの使いどころ
このHarmonic Mixer、筆者Takazudoも使ってみました。使ってみた感覚としては、これはSaturation(サチュレーション)やDistortion(ディストーション)に近いという感覚でした。Satturationにミキサーが付いてるぐらいの感覚でいいかもしれません。
VCOの波形をミックス
まず一つオススメの使い方としては、VCOの複数波形出力をこのミキサーで混ぜて好きな音を作るという使い方です。例えば当店ラインナップでは、以下がベーシックなタイプのオシレーターとして挙げられます。
これらは、Sine Wave/Triagnle Wave/Square Wave等、複数の波形を出力することができますが、それらをこのミキサーで混ぜ、好きな案配に調整して自分の欲しい音を作るという方法があります。サイン波だと柔らかすぎる、矩形波だとハードすぎるみたいな時、混ぜて自分のこのみの案配を探すというのも一つの楽しみ方でしょう。
このミキサーでまとめた音を以下のようなLow Pass GateやLow Pass Filterに渡し、VCOとこのミキサーの組み合わせをセットにして考えるようなイメージです。
- Meng Qi: DPLPG紹介
- AI Synthesis: AI017 Low Pass Gate紹介
- ADDAC System: ADDAC604 Dual Filter紹介
- Weston Precision Audio: SF1 Dual / Stereo VCF紹介
私Takazudoがこの方法でHarmonic Mixerを使ってみた動画を2つ紹介します。
1つ目はTZ0 Thru-Zero Oscillatorの複数出力をこのミキサーでまとめ、DPLPGに渡して使っている例です。ローパスゲートでマイルドになっていますが、その手前の段階の波形はだいぶハードに割れてる感じです(右下のDATAへ表示させているのがその波形です)
2つ目はADDAC701.REV2 VCOの複数出力をこのミキサーでまとめ、これも同様にDPLPGに渡して使っている例です。こちらはよりソフトな印象にしつつ、その中でこのミキサーのクリップするような印象を使えなかろうかと試行錯誤したものですが、サイン波っぽい音がクリップしているような印象の音がこのミキサー由来の音色になっています。
ドラム等を小さくまとめて加工
もう一つは、これは一般的なミキサーの使用用途ですが、複数の音源を混ぜ、エフェクターに渡したりなどしたい場合に便利に使えます。
例えば当店で扱っている以下のAD110は、CH(クローズドハイハット)とOH(オープンハイハット)を個別に出力させることができます。
ハイハットにだけDelayやReverbをかけたい(例えばOAM: Time Machineなどで)と考えた場合、このミキサーでCHとOHを混ぜ、その出力をエフェクターに渡すという使い方ができます。
以上、2つの使い方を紹介しました。いずれにせよ、このミキサーはボリュームを上げると、独特の歪む感じの変化を与え、それがさらに強いので、この変化を生かして色々と試していただくのが良いかと思います。
類似モジュール
このモジュールと類似したモジュールとしては、同ブランドのAI106 West Coast Mixerが挙げられます。また、ADDAC SystemのADDAC712 Vintage PreとADDAC714 Vintage Clipは、ミキサーではありませんが、本稿で紹介したようなこだわりのディストーションモジュールなので、ご興味ある方は併せてチェックしてみると面白いかもしれません。
- AI Synthesis: AI106 West Coast Mixer紹介
- ADDAC System: ADDAC712 Vintage Pre紹介
- ADDAC System: ADDAC714 Vintage Clip紹介
参考記事
このミキサー含め、当店で扱っている同種のミキサーを比較、解説したコラムをいかに書きました。ご興味ある方は是非こちらも併せてチェックして頂ければと。
その他参考動画
その他、本稿で触れたミキサーの特性の違いについては、YouTube: Sound + Voltageチャンネルの以下動画が大変参考になります。このAI022 Harmonic Mixerと、同ブランドAI106 West Coast Mixerのミキサーの回路図を参照しながら、違いを解説してくれていますので、ご興味ある方は是非ご参照頂ければと。
技術仕様
- 幅: 6Hp
- 深さ: 22mm
- 消費電力: 9mA +12V/9mA -12V/0mA 5V
DIYガイド
DIYキットには、パネル、PCB、すべての部品、フラットケーブル、取り付けネジが含まれています。
AI Synthesisは、Webサイトに細かなDIYガイドを用意しています。以下がそのガイドですが、組み立ての動画をはじめ、一つ一つの手順を写真入りで解説してくれているため、DIY入門的にもおすすめです。
組み立ててみた感想
こちらは私Takazudoの方でも自分で組み立ててみ ました。そしてその様子を撮った動画が以下です。とりたてて何か分かりやすくするための動画では無いですが、キットの雰囲気を感じてもらうためによろしければご参照いただければと。部品も小分けに袋に入っていて、親切なキットであることがご確認いただけるかと思います。
部品はスルーホールのはんだ付けしやすい大きさの部品のみで構成されています。部品数が少なく、短時間で組み立てられると思います。シンプルな作りの割には激しい音色の変化をもたらしてくれるものなので、DIY入門者の方も経験者の方もお楽しみ頂けるかと思います。
モジュラーシンセのDIYとは?
モジュラーシンセサイザーのDIYについて詳しくご存じない方向けに、以下にDIYの導入的なコラムを用意しました。DIYについてご興味のある方、始めてみようと思う方は、是非ご参照いただければと。
また、組み立てに際して不明点や不安な点がございましたら、以下Takazudo Modularのdiscordチャンネルにてお気軽にご質 問等、頂ければと思います。
AI Synthesisについて
AI Synthesisはアメリカポートランド州に拠点を置くモジュラーシンセメーカーです。
AI Synthesisのモジュールラインナップは、シンプルで実用性の高いベーシックなタイプのモジュールで構成されています。ユーザーの学習とDIYサポートに力を入れており、すべてのモジュールに丁寧なDIYガイドが用意され、設計図、BOMも合わせて公開されています。AI SynthesisのDIYキット で、シンセDIYを初めてみませんか?