AI Synthesis: AI106 West Coast Mixer紹介

2024/07/14 Author: Takazudo

Takazudo Modularにて取り扱わせて頂いている、AI SynthesisのAI106 West Coast Mixerの紹介です。

AI106は、モノラル3chのミキサーモジュール。ビンテージなWest Coastシンセサイザーで採用されているミキサーデザインの要素を取り入れた、入力波形に変化を与えるミキサーモジュールです。

アルミニウムパネル版、黒パネル版の2種類があり、DIYキットも併せて取り扱っています。

こちらの商品は、以下よりご購入頂けます。

商品写真: 完成品

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商品写真: DIYキット

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AI106 West Coast Mixerの機能

AI106 West Coast Mixerは、60〜70年代のヴィンテージWest Coastシンセサイザーのミキサーデザインを現代的な形にアップデート。ICやデジタル部品を使用せず、ユーロラックフォーマットのモジュールとして収めた、完全ディスクリート設計のミキサーモジュールです。

このミキサーの出力は、オリジナルの回路に忠実に、入力値の合計を反転させたものになります。オーディオシグナルを使用する場合、位相が反転してもほぼ変化はありませんが、CVシグナルの場合、入力した電圧は出力時、反転したものになっているのでご注意下さい。また、使用されている回路の性質から、ミックスされた電圧が高くなると、比較的早い段階でクリッピングされたような波形変化が発生し、音質に変化を与えるという性質を持っていると考えると分かりやすいかもしれません。

入力と出力がだいたい、以下のようになるというイメージで考えてもらえると良さそうです。

以下は、AI Synthesis公式のデモ動画です。

West Coastとは?

このモジュールの名前にも入っているWest Coastという言葉ですが、この言葉はモジュラーシンセサイザーを調べていると、West Coastスタイル、西海岸式、West Coast Synethesisなどという具合に、頻繁に目にすることになるであろうと思われます。なので、この点について軽く解説を加えておきます。

このWest Coastというのは、アメリカの西海岸のことです。アメリカの西海岸を中心に1960〜1970年代に作られていたシンセサイザーが、Wave Shaping(ウェーブシェーピング)と呼ばれる波形を変形させる手法を多く取り入れていたり、複数のVCOを用いたデザインを取り入れており、このスタイルに準ずるシンセサイザーの設計のことを、West Coast Synthesis、West Coastスタイル、西海岸式と呼ぶことがあります。

West Coast式シンセサイザーの代表的なブランドとしては、BuchlaSergeが挙げられ、この2つのブランドは現在でも素晴らしいシンセサイザーを多数リリースしています。多くのシンセサイザーがこのWest Coast式のデザインに影響されており、昨今作られているモジュラーシンセサイザーの特徴を表現する時、このWest Coastという言葉をよく見かけることでしょう。

West Coast Synthesisについては、以下Perfect Circuirtのの記事にて非常に詳しく紹介されています。ご興味ある方はご参照頂ければと。

このAI106 West Coast Mixerは、このWest Coastスタイルのシンセサイザーで使われているのミキサーの設計を参考にして作られたモジュールです。

ミキサーが音を変化させる?

このモジュールは、機能としては、3つの入力を加算合成するミキサーです。ここまでで、「入力波形に変化を与える」と書いてきましたが、それは一体どういうことを言っているのか、ミキサーってただ音を混ぜるだけではないんですか?と思われる方もいらっしゃるかとおもうので、その辺りの仕組みについて簡単に説明しておきます。

ミキサーは中で何をしているのか

まず、どのモジュールもそうなのですが、CVでもオーディオでも、波形を出力する際、その生成される波形はどこまでも高い電圧になるわけではありません。一般的なモジュラーシンセでは、概ね±5Vぐらいの範囲の電圧の揺れを出力するように設計されています。

単純に±5Vの電圧を3つ足したら、±15Vの電圧が出てきそうなものですが、モジュール内部の回路設計により、±5Vの範囲に収められた結果が出力されるのです。そして、それがどのようにならされるかは、使っている部品の組み合わせにより決定され、これがモジュールの特色として表れます。

例えばデジタルモジュールでは、内蔵のソフトウェアにより波形を合成するため、バッサリ±5Vを超える範囲を切り捨てたり、もしくはそう極端に切り捨てる結果にならないよう、電圧の加算処理を工夫したプログラムになっているかもしれません。アナログ部品を使っているモジュールでは、抵抗、ダイオード、オペアンプやトランジスタといった部品の組み合わせにより、入力電圧を下げたり混ぜたり、その後上げたり、高すぎる電圧を縮めたりなどした結果を出力します。ここで面白いのが、そのような処理の結果、入力シグナルをただ混ぜただけではない出力結果が生まれるというところです。

入力シグナルが変化している例

例えば以下は、前述のAI Synthesisの公式デモ動画の一部です。Mordax: DATAのオシロスコープで波形を表示させています。

入力シグナルが歪んでいる例2:ノコギリ波

入力シグナルが歪んでいる例2:三角波

左側は、赤がVCOからのSawtooth Wave(ノコギリ波)出力、緑がピッチを上げたSawtooth Waveを、このミキサーに通して得られた出力です。ここで、緑の波形は赤の波形が反転した形状になっていることに注目して下さい。

右側の緑波形は、Square Wave(赤のVCOの周期の矩形波)と、Sawtooth Waveをこのミキサーで合成した結果です。前述したように、加算合成された結果はクリップされるので、2つの別の形状/周期の波形が混ざった、複雑な音色を作り出しています。

このように、このAI106 West Coast Mixerは、波形をひっくり返したりクリップさせるミキサーですが、複数のVCOの出力を混ぜるなどして、この特徴を楽しんでいたくのが良いかと思われます。

West Coast Mixerの使いどころ

このWest Coast Mixer、筆者Takazudoも使ってみました。使ってみた感覚としては、細かくまとめたいときに気軽に使えて良いと感じました。

VCOの波形をミックス

まず一つオススメの使い方としては、VCOの複数波形出力をこのミキサーで混ぜて好きな音を作るという使い方です。例えば当店ラインナップでは、以下がベーシックなタイプのオシレーターとして挙げられます。

これらは、Sine Wave/Triagnle Wave/Square Wave等、複数の波形を出力することができますが、それらをこのミキサーで混ぜ、好きな案配に調整して自分の欲しい音を作るという方法があります。サイン波だと柔らかすぎる、矩形波だとハードすぎるみたいな時、混ぜて自分のこのみの案配を探すというのも一つの楽しみ方でしょう。

このミキサーでまとめた音を以下のようなLow Pass GateやLow Pass Filterに渡し、VCOとこのミキサーの組み合わせをセットにして考えるようなイメージです。

ドラム等を小さくまとめて加工

もう一つは、これは一般的なミキサーの使用用途ですが、複数の音源を混ぜ、エフェクターに渡したりなどしたい場合に便利に使えます。

例えば当店で扱っている以下のAD110は、CH(クローズドハイハット)とOH(オープンハイハット)を個別に出力させることができます。

ハイハットにだけDelayやReverbをかけたい(例えばOAM: Time Machineなどで)と考えた場合、このミキサーでCHとOHを混ぜ、その出力をエフェクターに渡すという使い方ができます。

はやめのクリップ

この2つの使い方ですが、いずれの場合であっても、はじめに触れたWest Coast Mixerの特徴である早めに音がクリップした感じになるというのがまた結構良い感じです。

これは好みの問題なんですが、筆者Takazudoは、比較的ハードめな音楽を好むので、なんであろうとちょっと音をクリップして割れた感じにしたいということが多いです。このミキサーは、割と早い段階でそのような変化をもたらしてくれるので、私のような趣向を持つ方であれば使いやすいものとなるかと思われます。

類似モジュール

このモジュールと類似したモジュールとしては、同ブランドのAI022 Harmonic Mixerが挙げられます。また、ADDAC SystemのADDAC712 Vintage PreとADDAC714 Vintage Clipは、ミキサーではありませんが、本稿で紹介したようなクリッピングにこだわっているディストーションモジュールなので、ご興味ある方は併せてチェックしてみると面白いかもしれません。

参考記事

このミキサー含め、当店で扱っている同種のミキサーを比較、解説したコラムをいかに書きました。ご興味ある方は是非こちらも併せてチェックして頂ければと。

その他参考動画

その他、本稿で触れたミキサーの特性の違いについては、YouTube: Sound + Voltageチャンネルの以下動画が大変参考になります。このAI106 West Coast Mixerと、同ブランドAI022 Harmonic Mixerのミキサーの回路図を参照しながら、違いを解説してくれていますので、ご興味ある方は是非ご参照頂ければと。

技術仕様

  • 幅: 6Hp
  • 深さ: 22mm
  • 消費電力: 12mA +12V/0mA -12V/0mA 5V

DIYガイド

DIYキットには、パネル、PCB、すべての部品、フラットケーブル、取り付けネジが含まれています。

AI Synthesisは、Webサイトに細かなDIYガイドを用意しています。以下がそのガイドですが、組み立ての動画をはじめ、一つ一つの手順を写真入りで解説してくれているため、DIY入門的にもおすすめです。

組み立ててみた感想

こちらは私Takazudoの方でも自分で組み立ててみました。そしてその様子を撮った動画が以下です。とりたてて何か分かりやすくするための動画では無いですが、キットの雰囲気を感じてもらうためによろしければご参照いただければと。部品も小分けに袋に入っていて、親切なキットであることがご確認いただけるかと思います。

部品はスルーホールのはんだ付けしやすい大きさの部品のみで構成されています。回路としてはかなりシンプル。部品数が少なく、短時間で組み立てられると思います。細かくドラム類をまとめたり、VCOの出力をまとめたり、ついでにちょっと歪めるみたいな使い方ができて利用用途の幅がとても広いモジュールです。それがDIYキットだとさらに安価なので、複数あってもアリなモジュールだと思います。DIY入門者の方も経験者の方もお楽しみ頂けるかと。

モジュラーシンセのDIYとは?

モジュラーシンセサイザーのDIYについて詳しくご存じない方向けに、以下にDIYの導入的なコラムを用意しました。DIYについてご興味のある方、始めてみようと思う方は、是非ご参照いただければと。

また、組み立てに際して不明点や不安な点がございましたら、以下Takazudo Modularのdiscordチャンネルにてお気軽にご質問等、頂ければと思います。

AI Synthesisについて

AI Synthesisはアメリカポートランド州に拠点を置くモジュラーシンセメーカーです。

AI Synthesisのモジュールラインナップは、シンプルで実用性の高いベーシックなタイプのモジュールで構成されています。ユーザーの学習とDIYサポートに力を入れており、すべてのモジュールに丁寧なDIYガイドが用意され、設計図、BOMも合わせて公開されています。AI SynthesisのDIYキットで、シンセDIYを初めてみませんか?

電氣美術研究會

オマケ: 電氣美術研究會モジュラー小物セット付き

電氣美術研究會

モジュラーシンセをもっと多くの方に触って欲しいという願いの元、電氣美術研究會さまにご協力頂き、モジュラー小物セットを本商品にバンドルさせて販売させていただいております。

パッチケーブルや電源ケーブル、ドレスナットのサンプルセット、モノラルスプリッターなど、内容は時期に応じて変化します。商品に同梱しますので是非お試し下さい!

AI106 West Coast Mixerの紹介は以上になります。

ご参考になれば幸いです。